菩提寺が遠方の実家近くにある場合、「墓参り」は一大事だ。やっと墓にたどり着いても、荒れ果てた墓の掃除で大汗をかく。自宅近くに墓があれば──そう思う人は多いだろう。だが、「墓じまい」は手続きを間違えると思わぬトラブルに見舞われる。
まずは何より「親族の合意」
猛暑と台風の影響による暴風雨が列島各地を襲った今年の盆休み。千葉県在住のAさん(70代男性)はかつて実家のあった新潟で墓参りをしたが、今後について考える契機となったという。
「兄弟も故郷を離れて実家はすでになく、墓だけは長男の私が守ってきました。遠方で不便な土地のため今年はお盆の墓参りに疲れ果ててしまい、お金も体力もこれ以上かける自信がなくなりました。母の七回忌も済んだし、墓じまいを考えています。自分の子供にまで負担はかけたくない」
そう語るAさんのように、田舎の墓を墓じまいして「改葬」を考える人が近年増えている。厚生労働省「衛生行政報告例」によると、2011年度の墓じまいの年間件数は全国で約7万7000件だったのに対し、2021年度には約11万9000件と、10年間で1.5倍に増加した。
とはいえ、必要な手続きや費用などがわからず、どう始めればいいのかと二の足を踏む人も多いだろう。葬送コンサルタントの吉川美津子氏が言う。
「継ぎ手が不在の墓は、放置されると無縁墓になる可能性があるため、自分以外にお墓の後継ぎ(祭祀承継者)がいない場合、墓じまいをして遺骨を移す方法を考える必要があります。しかし、その手順を誤ると親族との関係や費用面などで様々なトラブルを抱えることになるので注意が必要です」
吉川氏監修のもと、失敗しない墓じまいの手続きとポイントを示した。これを参照しながら、手順を確認していく(以下、特記のない「 」内のコメントは吉川氏)。
そもそも「墓じまい」とは、今ある墓を撤去して更地にし、寺や霊園など管理者に区画を返すことをいう。そこから新たな場所に納骨することを「改葬」といい、現在ではそこまでの一連の手続きを墓じまいと呼ぶ。
まず重要なのが、親族の合意を得ることだ。
「先祖代々の墓の場合、祖父母や両親だけでなく、疎遠になった親族の遺骨が納められている場合もあります。墓じまいはそうした人の遺骨も一緒に引き受けることになる。法的には親族の合意は不要ですが、付き合いのないおじやおばの遺族などが『墓参りに行ったら墓が消えていた』『自分たちの入る墓がなくなった』と怒り出して揉めることもあるため、関係者への報告は事前に済ませておく必要があります」