誰もが自由に、自分らしく生きられるようになったはずの現代社会。しかし、それは裏を返せば「誰かの自由を脅かしかねない者には即座に罰が下り、社会から排除される」ということでもある。つまり誰もが、「キャンセル」──すなわち社会的に抹殺される可能性があるのだ。
では、自分がキャンセルの対象にされないためにはどうすればいいのか。都内在住のHさん(52才)が、自身の失敗について語る。
「職場の新入社員の男の子は、いつも身ぎれいにしているんです。最近は『ジェンダーレス男子』なんて言葉もはやっているし、冗談半分にほめたつもりで“女の子みたいに肌がきれいだよね。ソッチ系なの?”と言ったら、“えっ……”と絶句されて、場の空気が凍ってしまったんです。後日、上司に呼び出されて“セクハラ発言を慎まないと降格させる”と厳重注意されました」
かつては笑って済まされた軽口も、いまはセクハラであり、差別発言だ。特にジェンダーや人種、宗教、容姿にかかわる発言は、1つのきっかけになり得る。「こんなことで傷つくなんて」と反論すれば、その無神経さこそがキャンセルの理由になる。相手が傷ついたり、不快に思う可能性を「わかっていない」「気にしていない」ことが問題なのだ。千葉県在住のSさん(36才)が語る。
「60代の義母のフェイスブックを偶然見つけて眺めていたら、“殿方は24時間働いて稼ぐのだから、女は三歩下がって家を守るべき”“わたくしの若い頃は旦那さまより先に起きて化粧をしていたものです”“子供を産んで育てることこそ女の仕事”などと昭和の価値観満載で、共働きで子供がいない私のことを内心でどう思っているか、とてもよくわかりました。以来、義母とは距離を置いています」
中高年が陥りがちな失敗は、時代の変化を理解せず、自分の発言のどこが間違っているか理解できないこと。好例が今年2月の荒井勝喜・総理秘書官(当時)のオフレコ発言だ。性的マイノリティーについて「見るのも嫌だ。隣に住んでるのもちょっと嫌だ」と差別的な発言をし、その後「ぼくは基本的にそんなに差別をしているのではない」と釈明するも、あっさり更迭された。新著『世界はなぜ地獄になるのか』(小学館新書)で現代社会を覆う「キャンセルカルチャー」の正体を分析した、作家の橘玲さんが指摘する。
「日本では当たり前に使われている『ブラック企業』という言葉も、“ブラック=悪という決めつけは黒人差別(レイシズム)だ”と日本在住の黒人から批判されています。誰がどのように感じるかをあらかじめ知ることは不可能で、言葉の使い方には細心の注意が必要になってきました」(橘さん)
自分の間違いを理解していなければ、何度も似たような問題発言を繰り返して、周囲との溝が深まっていく。
「長いスカートばかりじゃもったいないわよ。短くしたら人事評価が上がるんじゃない?」「このお茶、やせるんだって! 飲んでみたら?」
神奈川県のMさん(29才)の同僚女性は社内でこんなビミョーな発言を繰り返していたが、ある日、ついに事件が勃発した。