何を言うかより、誰が言うかに人は左右されやすいとされている。影響力のある人の言動は、その内容がどんなものであっても信用されやすい。かつてなら政治家が芸能人など、最近はネットでのインフルエンサーによる発信は内容の精度に関わらず信用される傾向がある。インフルエンサーによる言説は、ときに従来の影響力ある人たちの発信に比べてふわふわと根拠が薄くても、勢いよく拡散され、信じる人をつかんでしまうという特徴がある。現代を生きる人たちの生活と思想について記録を続けている俳人で著作家の日野百草氏が恣意的なソース(情報源)提示の問題についてレポートする。
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韓国の女性アーティスト、DJ SODAが8月に出演した大阪の音楽フェス『MUSIC CIRCUS’23』で「数人が突然私の胸を触ってくるというセクハラを受けました」とした問題に関して、賛否それぞれネットを中心とした応酬が続いている。
セクハラそのものを肯定する者はほとんどないが、それでもDJ SODAにも責がある、とする側は「そういう服を着るのが悪い」「観客に近づいたのは自分」「だったら日本来なくていい」など主張。いっぽう、DJ SODAに責があるとするのは間違っている、とする側は「セクハラした側が100%悪い」、「普通に犯罪」「痴漢大国日本」といった主張で、この論争には著名人の多くも参戦している。イベント主催会社は大阪府警に刑事告発、実際に行為に及んだとする二名が実業家に説得されて出頭したり、アニメ監督が「公開型のつつもたせ」「彼女の芸に加担しないこと」と投稿して炎上したりと、騒動は収まる気配にない。
〈挑発的な服装が被害の一因〉はどこに?
経緯をひと通り書いたが、本稿でその是非は言及しない。ここで問題とするのは騒動の中、あるインフルエンサー氏が投稿した内容にある。
彼は「ユタ州立大学の調査」として、
〈22人に1人は、挑発的な服装が被害の一因だそうです。ちなみに殺人だと22%は服装が原因になるそうです〉
といった引用を投稿した。さらに先の引用リンクにあったと思われる1次資料となるはずのPDFは消失してしまっているが、そのインフルエンサー氏の引用リンク自体は2006年とかなり古いもの、Googleの運営する「Google Answers」と呼ばれる質問サイトにおけるQ&Aだった。
〈Question
I was interested to know if there are statistics out there for rape cases and how the victim and how they were dressed was used against them?〉
レギュレーション上、センシティブな内容、単語もあるため意訳とするが、質問としては被害者(victim)の着ていた服、つまり服装が被害のきっかけとなったか、影響を与えたかといった内容である。how they were dressedなので、直訳すれば「(被害者である)彼らはどんな服を着ていたのか」といった感じか。ちなみに前置くが何も難しくはない。中学高校で学ぶ内容ばかりの、ごく普通の英文である。