それでも伊藤は「強くなるしかない」という一心で踏ん張った。三段リーグの突破には2年半を費やしたが、「棋士になってみると、三段で苦労した時間も無駄ではなかったと思うようになった」と伊藤は述懐する。厳しい精神状態で修業を続けたことで、元々持っていた大きなポテンシャルをさらに伸ばすことができたのだ。
棋士になってからも歩みは一切止めていない。「自分は将棋以外にやりたいことがない」と語る伊藤はオフを一切作らず、毎日将棋に打ち込んでいる。中日ドラゴンズのファンで昔は試合を見ることもあったが、「最近はストレスがたまるので、中継は見ていません(笑)。結果だけはチェックしていますけどね」とユーモアを交えながら語る。
スーパーフレッシュ対決となる七番勝負の下馬評は藤井有利で間違いない。だが年下の伊藤には底知れないポテンシャルがあり、凄まじい努力でそれを開花させようとしている。果てしなく広がる余白部分が、最強棋士を打ち負かすのではないかという予感を大きくさせるのだ。(文中一部敬称略)
◆取材・文/大川慎太郎(将棋観戦記者)