【著者インタビュー】鈴木涼美さん/『浮き身』/新潮社/1650円
【本の内容】
コロナ禍に暮らす《もうすぐ子どもは産めなくなる》年齢になる《私》。恋人と喧嘩をした翌日、かつて暮らした歓楽街に向かった。19年前の春、19歳の私は《自宅から通うにはやや遠い良い大学》に入学したものの、大学に行っていなかった。そして無店舗型風俗=デリヘルを開業するために男たちが借り上げた11階にあるマンションの部屋に入り浸るようになる。《道に座って時間を潰すほど若くはなく、一日を理由のある時間で埋め尽くしてしまうほど諦めてもいない私たちは、夜になると地上からここ十一階まで上がって、浮くようにそこに居た》。セックス、ドラッグ、バイオレンス……2000年代初め、まだ若く、何者でもなかったあのころの熱狂と倦怠の時間がむせ返るような匂いとともによみがえる。
自分語りをしているような感覚もあり気恥ずかしい
日本経済新聞社在職中に『「AV女優」の社会学』で鮮烈にデビュー、退社後も雑誌やウェブメディアでエッセイや時事コラムなどで活躍する鈴木涼美さん。2022年に初めて発表した小説『ギフテット』、第2作の『グレイスレス』が続けて芥川賞候補になり、『浮き身』が小説としては3作目になる。
「小説はもともと読むのが好きで、書いてみませんか?というオファーをいただいて、自分に書けるかどうか全然未知数だけど、書いてみたいな、と思っていました。ただ、なかなかまとまった時間がとれず、『いつか書きます』という状態が続いていて。一時期、ウェブの連載などでほぼ毎日締切がある状態だったんですね。好きなことを書くためにフリーになったのに、会社員時代より自由がない。このままだと一生、長いものを書かずに終わると思って、がんばってまとまった時間をつくって書くことができました」
『ギフテッド』と『グレイスレス』に描かれる女性主人公は、鈴木さんの分身のようで、重ならない部分が割とはっきりしている。今回の『浮き身』の主人公は、年齢的にもかなり鈴木さん自身に近い印象だ。
「前2作は、モデルとなる人物を想定してキャラクターをつくり込んだんですけど、今回は自伝的要素が強いというか、かなり重なる部分が大きいです。いまの自分に近い言語感覚で生きている人ですし、私自身、彼女と同じ年の時に小説の舞台となる場所に住んでいたので。もちろん、小説なので作りものではあるんですけど、私が自分語りしているような感覚になるところがあって、書いていて気恥ずかしさがありました。
考えてみると私、エッセイでも自分自身を掘り下げるようなことはあまり書いてこなかったんだなと」