1987年の騎手デビューから34年間にわたり国内外で活躍した名手・蛯名正義氏は、2022年3月から調教師として活動中だ。蛯名氏の週刊ポスト連載『エビショー厩舎』から、“夏競馬の最終週”について、お届けする。
* * *
いよいよ今週で夏競馬も終わり。来週から関東は中山、関西は阪神に競馬が戻ってきます。9月の開催は最終週にGIスプリンターズステークスが行なわれるし、毎週のように秋華賞や菊花賞のトライアルが組まれています。ファンにとっては「待ちに待った季節到来」といったところでしょう。
しかし調教師にとって夏競馬の最終週というのは、3歳未勝利戦が行なわれる最後の週。それまでに勝てなかった馬の今後の進路を決めなければなりません。最終的には馬主さんの判断になりますが、中央の登録を抹消して引退させるのか、あるいは地方競馬に転出させるのかなどについて、こちらの考えを提案しなければなりません。
毎年微妙に違いがあるものの、中央競馬では1世代で1勝できる馬がだいたい3割強と言われていますが、管理する側としては1頭残らず勝ち上がってほしいと思いながら調教を行なっています。
蛯名正義厩舎では現3歳馬を20頭ほど預けていただきました。すべてデビューさせることができ、(8月20日終了時点で)10頭が勝ち上がってくれました。最終週まで出走させるつもりですが、これはどこの厩舎も同じ。前走5着以内で優先出走権があればいいのですが、初出走馬以外は前走とのレース間隔が長い順の出走となります。とくにダートの短いレースは、出走を希望する馬が多く、前走から8、9週以上開いていないと出走できない状況です。
未勝利馬1頭1頭については、それぞれの馬に合った“未勝利脱出策”を講じてきました。たとえばエッセンシャリティという牝馬は馬体重が400キロに満たない小さな馬でしたが、気持ちは強いものがあったので、勝てると思っていました。
1月の小倉でデビューさせましたが、あいにくの重馬場が小さな体に堪えたようで力を発揮できませんでしたし、まじめで全力で走る子なので、使った後にガクッと来ました。その後立て直し、2走目は早い時期から馬場のいい7月末の新潟初日に目標を定め、51キロで乗れる永島まなみ騎手に依頼しました。前半のスピードについていけず後方からの競馬になり、出走馬中一番速いタイムでの上がりでしたが9着までが精一杯。今のルールでは未勝利戦が組まれている間に出走させることは難しいので登録抹消となってしまいました。