もふもふな靴

もふもふな靴をはく松岡茉優(2018年撮影)

 もともと「○周目の人生」というコンセプトのベースとされているのは、プレイヤーがクリアするまで人生を何度もやり直すアドベンチャーゲーム。「もしあのときこうしていたら……」を繰り返し体感して楽しめるため、徐々にアニメなどでも定番設定の1つとなっていました。

 さらに近年では、「○周目の人生」が日常会話で使われるフレーズとして定着。「物事をよく知っている」「落ち着きがある」「配慮ができる」などのほめ言葉として使われるようになり、特に若年層にとって親しみのあるフレーズになりました。

 そんな背景もあって近年増えてきたドラマの「〇周目の人生」は、「1周目の記憶や能力を持ったまま、2周目以降の人生を進められる」という便利さを最大限活用。「1周目の記憶や能力という強みがあるから、この主人公は問題解決できるかもしれない」という展開で視聴者を引きつけようとしています。

 前述したように、タイムリープ、入れ替わり、憑依、超能力を扱ったファンタジー作品は昭和のころから放送され続けてきた定番設定。シンプルで老若男女を問わず理解しやすいため、「心の機微を丁寧に描いた物語より、単純明快なエンタメを選ぶ現在の視聴者に合う」と言われ、令和の今なお多用されています。

 その点、『最高の教師』は「○周目の人生」をフィーチャーすることで、タイムリープを扱う作品としての鮮度がアップ。ふだん使っている言葉としての親しみもあり、テレビ局としてはスポンサー受けのいい若年層の視聴者を引きつけることが期待されているのです。

「人生をやり直せる」の誤解と危うさ

 ただ、ファンタジーの定番設定は、「安易すぎて物語に入り込めない」「使い古され、見飽きたもの」などとみなす人が少なくありません。タイムリープから転じて「○周目の人生」をフィーチャーした『最高の教師』も、「流行りに乗った」と否定的な見方をする人がいるなど、「好きか嫌いか」二分されやすいコンセプトなのでしょう。

 さらに「死んでしまっても2周目の人生がはじまる」というストーリーは、「死んでもリセットできるなら問題ない」「死んでもやり直しが効く」という誤解を与えてしまう危険性の指摘があります。毎年2万人以上の自殺者がいる中、「学園ドラマでこのような設定は若年層に悪影響を及ぼすのではないか」という声も見かけました。

 しかし、『最高の教師』は、そんな安易さや流行りに乗るようなムードを感じさせず、自死に対するメッセージを込めたさらなる設定を用意していました。1周目で自死を選んでしまった鵜久森に「3周目の人生は絶対にない」という確信的な感覚を持たせ、「だから未来を変えるために今を必死に生きる」という懸命な姿を描いたのです。

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