9月8日にラグビーW杯フランス大会が開幕する。2011年・2015年・2019年の3大会を戦い抜いた「小さな巨人」田中史朗(38)。強化試合の解説も務めた田中は今大会の展望をどう描いているのか。
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W杯前に行なわれた強化試合の1勝5敗という結果に不安を抱くファンも少なくないと思います。確かに、ぼくの目にも状態がよくないように見えました。でもぼくは、日本の躍進を信じています。日本代表が、一気に変わる可能性を秘めた組織だからです。
南アフリカを破った2015年W杯も、ベスト8になった2019年W杯もチームがまとまるきっかけがありました。2015年は、最後の強化試合となったジョージア戦で終盤に逆転した瞬間、チームがひとつになった実感をみんなが共有できた。2019年はジェイミー・ジョセフ(ヘッドコーチ)の言葉です。アイルランド戦の前、普段から情熱的な彼がいつも以上に熱っぽく語りました。
「オレたちが勝つとは誰も思っていないだろうけど、台風を巻き起こそう!」
その言葉が、いままで以上に、みんなが身体を張ったプレーを繰り返すきっかけになり、ワンチームになる足がかりになった。世界ランク1位のアイルランドを撃破する原動力になったように感じるのです。
チームを変えるのは、勝利かもしれませんし、誰かの言葉かもしれません。そこでキーとなるのが、リーダーたちの存在です。
主将の姫野和樹選手は言葉よりも、身体を張った激しいプレーでチームを引っ張るタイプ。いまの日本代表には、そんな新主将を支えるベテランがいて、姫野選手がキャプテンシーを発揮できる環境が整っています。W杯2大会で主将を務めたリーチマイケル選手、4大会連続出場のベテラン堀江翔太選手、代表キャプテンの経験がある坂手淳史選手、副将の流大選手らのサポートを受け、姫野選手がパフォーマンスに集中できれば、彼のプレーにみんなが鼓舞される。
しかも前回大会よりも、ひとりひとりがレベルアップしています。注目したいのが、齋藤直人選手をはじめとした若い選手たち。彼らは学生時代から、強い日本代表を目標にして、高い意識を持ってラグビーを続けてきた世代です。
ぼくは勝てなかった時代もふくめて12年間も日本代表としてプレーさせてもらいました。とくに前回、前々回のW杯ではラグビーが嫌いになりそうなほどしんどい練習を続けた。それはいまの日本代表も同じです。だからこそ、わかるんです。いまの日本代表は、ひとつのきっかけで結束できる。また日本中を熱狂させてくれるはずだ、と。
【プロフィール】
田中史朗(たなか・ふみあき)/1985年1月3日生まれ。 京都府出身。身長166cmと小柄ながら2011年、2015年、2019年のW杯3大会で活躍した「小さな巨人」。
取材・文/山川徹
※週刊ポスト2023年9月15・22日号