日本語を母語としないながらも、今は流暢でごく自然な日本語で活躍している外国出身者は、どのような道のりを経てそれほどまで日本語に習熟したのか。日本語教師の資格を持つライターの北村浩子氏がたずねていく。今回は、北村氏が働いていた日本語学校の卒業生で、現在は関西大学システム理工学部で助教を務めるアイエドゥン・エマヌエルさんに、文法や単語を学び始めた頃の話をうかがった。【全3回の第2回】
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エマさんが使っていた教科書は、多くの日本語学校で使われている『みんなの日本語』だ。マライ・メントラインさんへのインタビューでもこのテキストについてすこし話をしたが、名詞文(『これはわたしのかばんです』)、形容詞文(『わたしのかばんは小さいです』)、動詞文(『昨日小さいかばんを買いました』)のように順序立てて学ぶことで、前に覚えた言い方を使いながら新しい言葉と表現を増やしていける作りになっている。
エマさんが言うように『普通にやっていたら、徐々に』できるようにはなる。しかし『自然に』できるかといえば、当然ながらそうではない。
『電気がついています』『電気をつけておきます』という文がこの教科書の中盤あたりに出てくる。『ついて』と『つけて』の違いを、普段わたしたちは気にしない。が、前者は自動詞、後者は他動詞で、この区別はとても大事な文法項目だ。『ドアが開けています』がなぜおかしいのかといえば、自他動詞の使い方が間違っているからなのだが、間違えやすい分だけ教える側は注意深くなる。教わる側も『火を消す?火を消える?どっちだっけ?』のように混乱しがちだ。と思うのだが──。
「ああ、自動詞、他動詞、うん、そう言われてみれば、今もちゃんと使い分けれてるかちょっとあやしいんですけど……(笑)ただ、最初のうちはあまり深く考えずにとにかく覚えようってことだけを考えていた気がするんですよね。授業中、クラスメイトがちょっとふざけて『先生、なんでこんなんなってるのー?』って文法について聞くと『これはルールだから覚えましょう』って先生はいつも答えていて、語学の勉強って基本的に、まるごと覚えることから始まるのかなと。
その覚え方なんですが、ちゃんとコンテキスト(文脈)の中で覚える。ただ漠然と単語を暗記していくとかじゃなく『シチュエーションの中の表現』として覚えるのが大事かなとは思ってました。日本語うまいなって思う友達の言葉をとりあえず真似てみたりすると、ああ、こういうやりとりの時にこういう表現を使うんだって分かる。当時はそういう風にやっていました」