同じく岩手県に住む二児の母親も語ってくれた。
「とにかく時給が安いです。正社員だって地元企業は給料安いです。若い人はみな東京に出てしまいます。物価の高さとか、ガソリン代の高騰とか岩手だって東京と同じなのに」
彼女は専門職なので何とかなっているようだが、友人の大半は進学や就職を機に首都圏に出てしまっていると話す。岩手に限らず地方の若者が東京や名古屋、大阪といった三大都市圏に出てしまうのは進学先の幅の広さや娯楽の豊富な面もあるが、結局のところ地元の賃金の安さが最大の理由のように思う。
実際、東京の出版社で働く東北出身の40代男性もこう語る。
「賃金が安いところばかりで働こうなんて思いませんよ、だから人口が流出しているわけで。以前の就職氷河期とか、就職難の時代に比べれば田舎でも仕事はありますけど、人手不足といっても田舎の場合は『低賃金人手不足』ですからね。900円とかで働いてくれる人募集なわけで、それもコンビニとかならマルチタスクは都会も田舎も変わりませんから、それで時給900円台とかで働くわけがないですよね、社員だって手取り20万円いかないどころか10万円ちょっととか普通にあります。そりゃ脱北しますよ」
彼は「脱北」と言っていたが、ネットスラングで主に北日本から東京などへ若者が出ていくことを指す。いまに始まったことではないが、確かに物価高と各種税金、社会保険料が上がり続ける中で「最低賃金893円」では地元に残らないのも無理もない話。正社員すら地方の多くは安いままだ。
さらに言えば、この国そのものが正社員も、非正規も、自営業も関係なく使えるお金は減り続けている。財務省によれば2023年度の国民負担率は46.8%(租税負担. 28.1%+社会保障負担 18.7%)、日本人の所得の半分が税金と社会保障に消えている。冗談で言われていたはずが本当に江戸時代の「五公五民」になってしまった。
「地元に残りたい人は多いと思いますよ。でも将来を見通せないのだからしょうがない。田舎でもガソリンは高いし税金も社会保険料も田舎だから安いわけじゃない。これは低賃金の地方全部に言える話だと思います。コストコみたいなしがらみのない外資が時給1500円とか、2000円とかで一度ぶっ壊してくれないと無理でしょうね」
確かに「田舎だから安い」なんて話は必ずしも当てはまらなくなった。