「地域格差」という言葉を聞いたとき、どんな格差を思い浮かべるだろうか? 交通だろうか、買い物だろうか、教育だろうか? いまもっとも関心が集まるのは、賃金格差、経済格差ではないだろうか。2023年度の全都道府県の最低賃金引き上げ額が出そろい全国最下位、達増拓也知事の5期目当選も決まった岩手県民に、現代を生きる人たちの生活と労働について記録を続けている日野百草氏が都市と地方の賃金格差について聞いた。
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「ついに岩手の最低賃金が全国最低になってしまいました」
岸田首相が2030年代半ばまでに「最低賃金1500円を目指す」と表明、そして達増拓也知事の5期目当選となった日の岩手県、盛岡市に住む筆者の旧友から切実な訴え。
「単独最下位ですよ、順位なんか気にするなと言っても、最下位はないでしょう」
2023年10月から全国47都道府県の最低賃金が順次引き上げられるが、それまで横並びに最下位だった青森、秋田、佐賀、長崎、熊本、宮崎、鹿児島、沖縄の8県に取り残されて最低賃金単独最下位に転落した県がある。
それが岩手県だ。
答申された最低賃金は893円、これでも39円引き上げられたが、他県がそれを上回ってしまったために単独最下位に転落した。ちなみに最低賃金の常連、沖縄県が896円で徳島県と並びブービーとはいえ、ついに最下位から脱出した。
もちろん本稿は岩手県をあげつらうことが目的ではない。実際、ほとんどの道府県は岸田首相の目指す1500円どころか1000円すらいかなかったのだから。
「どこも目安額を上回る答申を出しているのに岩手は目安通り。893円ですよ? 岩手だって盛岡はもちろん北上、一関などそれなりに栄えた街はあります。それで893円、単独最下位、そりゃみんな仙台とか東京出ますって」
彼は幸いにして安定した地元企業に勤めているが、あくまで最低賃金とはいえこの物価高の中、1円たりとも目安額に上乗せすることなく893円で決まるというのも凄い。実際、盛岡では駅周辺の居酒屋やコンビニはもちろん、大型ショッピングモールすら時給900円台スタートが当たり前のように存在する。
低賃金人手不足
ちなみに「目安額」とは厚生労働省の中央最低賃金審議会が全国の都道府県に出す最低賃金の「目安」のことである。それを各都道府県の最低賃金審議会が参考に議論、答申するのだが、多くの都道府県は上乗せをしたにも関わらず、岩手県は目安通りの引き上げ額で決着した。同じ東北で比較するなら、目安より上乗せして900円まで引き上げた山形や福島とは対照的な決着となった。