警察や軍関係、暴力団組織などの内部事情に詳しい人物、通称・ブラックテリア氏が、関係者の証言から得た驚くべき真実を明かすシリーズ。今回は、極刑を言い渡した1審判決から約2年、北九州市の特定危険指定暴力団「工藤会」の総裁・野村悟被告(76才)、ナンバー2・田上不美夫被告(67才)の控訴審から分かるヤクザの裁判の特殊性と影響について。
* * *
「あんた生涯、このこと後悔するよ」と第一審の判決公判で、足立勉裁判長に向かってそう発言した特定危険指定暴力団・工藤会総裁、野村悟被告らの控訴審が、13日から福岡高裁で始まった。
前出の発言が野村被告から出たのは、2021年8月24日、裁判長によって死刑判決が言い渡された時だ。無罪を主張していた野村被告は「公正な判断をお願いしたんだけど、全部推認、推認。こんな裁判あるんか」と強い口調で言い、「生涯、後悔する」と威嚇した。同じく無罪を主張していた工藤会ナンバー2で会長の田上不美夫被告は、無期懲役を言い渡され「ひどいな、あんた、足立さん」と言葉をぶつけた。
この裁判で対象とされたのは、工藤会組員が市民を襲撃した4つの事件だ。1998年2月に北九州で起きた漁協元組合長の男性を射殺した事件、2012年4月に北九州で起きた元福岡県警警部を狙った銃撃事件、2013年1月に福岡市で起きた女性看護師の刺傷事件、そして2014年5月、北九州市で起きた漁協元組合長の孫の男性歯科医師刺傷事件である。どれも実行犯として組員が逮捕されていたが、トップからの指示については全員が黙秘を貫いていた。
北九州を「修羅の国」と化した工藤会は、特に危険な団体であるとして、日本で唯一、特定危険指定と認定されている。それだけに統制は厳しく、絶対的な上下関係は、他の組織よりも強固だったといわれる。
「ヤクザが逮捕されれば、有罪判決を受けるのはほぼ確実。組員の誰かがしゃべったとわかれば、周りに蔑まれるだけでなく、ムショでもどこでも、いつどんな制裁を受けるかわからないという不安と恐怖の中で生きてくことになる。しゃべるわけがない」と、ある暴力団を抜けた元組員はいう。口を割らないのは組織や組織のトップを守るだけでなく、自分の身を守る術でもある。
「ただ」と前置きして元組員はこうもいう。「組を抜ければ、縛りはなくなるかといえばそうではない。普通の企業だって、辞めた社員に秘密保持誓約書にサインさせるだろう。あれと同じだ。ヤクザ一般、他の組のことならしゃべれるが、組内のことは話せない。まして事件については口にはしない。密売や特殊詐欺でも古くなったやり方や、他の組の案件なら話せるが、自分がいた組が関わる案件や進行中の仕組みについては話せない」。