【著者インタビュー】太田愛さん/『未明の砦』/KADOKAWA/2860円
【本の内容】
東京・吉祥寺を歩く若者3人。彼らの一挙手一投足は防犯カメラのモニターに映し出され、尾行もされていた。警察はすでに令状を取得していて、アジトで待つ1人を含めた4人はあっけなく逮捕されるはずだったが、そのとき、タイ料理店で火災が起こり、そのパニックの間隙を縫って行方をくらました──彼らはどこへ消えたのか。彼らが犯した罪とは何なのか。なぜ彼らは立ち上がったのか。4人の若者たちが巨大なグローバル企業と公安の企みを炙り出す。
市民運動や労働運動がターゲットになるのでは
共謀罪を題材にした骨太の社会派小説である。社会のゆがみを描いて深く考えさせると同時に、次にくる展開がまったく読めないサスペンスとしての醍醐味もあり、最後までぐいぐい引っ張っていかれる。
太田さんの初めての新聞連載でもある。新聞連載でこの題材を取り上げるのは勇気がいったのでは。
「それは順番が逆なんです。次はこの題材で書きたいと思っていたところに新聞連載の話をいただいたので、じゃあこれを書きます、と。新聞連載の経験もなかったので割と簡単に決めました。
『天上の葦』(2017年)を書くとき治安維持法について細かく調べる必要があったんですけど、共謀罪と治安維持法って非常に近いんですね。日本の刑法というのは、基本、重大犯罪を除けば既遂が原則で、やってしまったことに対して罰を下すことになっていますが、共謀罪は2人以上が話し合うだけで適用でき、とても恣意的な運用が可能です」(太田愛さん・以下同)
共謀罪は、何かしらの犯罪の共謀自体を構成要件とする。たとえば雑誌の労働問題特集をコピーして勉強会で使おう、そう話し合ったことも、著作権法違反の共謀罪として逮捕しようと思えばできる。
共謀罪が成立したのは2017年。それまでに何度も国会に提出されてきたが、かつての言論弾圧を知る政治家の中にも反対する声は強く、廃案になっていた。「テロ等謀議罪」の名称にして「組織的な犯罪」への対応を強調することで法案を成立させた経緯がある。