『80歳の壁』など数々のベストセラーを生み出す和田秀樹医師が、「58歳から元気になる方法」をテーマに、50代から60代の現役世代の悩みに答える。80代を過ぎた親が、近所の人とトラブルを起こすようになった場合、子供としてできることはあるのか。高齢者の精神医療に長く携わる和田医師が考える原因と対処法とは。
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歳を取ると「思い込みの修正」が難しくなる
80代を過ぎた親御さんが、近所の人とケンカしている様子を見たり聞いたりした場合、子供としては大いに悩むことでしょう。仲裁したほうがいいのか、老いた親を叱るべきなのか。具体的な対処法を考える前に、歳を取った親御さんの身に何が起きているかを考えてみることも大事です。
>誰もが経験的に知っている通り、歳を取って衰えるのは筋力や臓器の機能ばかりではありません。脳も老化します。高齢者の認知症はそうした老化現象の一つ。認知症のなかで一番多いアルツハイマー型は、「脳が萎縮する」と言われるタイプです。
実際に亡くなった認知症の方の脳を解剖すると、記憶を司る「海馬」や、思考や感情、行動や判断を司る「前頭葉」に萎縮が目立ちます。前頭葉は、社会の中で人間が人間らしく生きるために最も必要な部分です。
その前頭葉が衰えると、具体的には何が起こるでしょうか。「考えることが面倒になる」「感情をコントロールできなくなる」「喜怒哀楽が激しくなる」「意欲が衰える」「集中できなくなる」などが考えられます。
高齢者の迷惑行動がある時から「暴走老人」などと言われ、社会で問題視されるようになりましたが、些細なことでも我慢できずに「キレやすくなる」背景には、前頭葉の衰えが推測されます。
前頭葉の衰えによる現象としては、「思い込みの修正が難しくなる」という面も指摘できます。それがひどくなると、いわゆる妄想が生じて、たとえば「嫁がものを盗った」「隣人が盗みにやって来る」などの「もの盗られ妄想」が始まることもよくあります。ひどいケースになると、毎日のように110番するみたいなことになるわけでです。
そういう背景があるなかでは、事実がなかったとしても「近所の人が自分にいじわるする」「いつも自分の悪口を言っている」などと勝手に思い込み、信じ込むこともわりと頻繁に見られるケースです。この場合、子供など周囲がいくら否定しても、本人の思い込みは容易に覆りません。