タレント、スポーツ選手、アニメキャラ、お菓子、場所、モノ……あらゆるものが対象となる“推し活”は、人生に素敵な潤いを与えてくれる。一方、「誰かのファンになったことはほとんどない」というのは、女性セブンの名物ライター“オバ記者”こと野原広子さんだ。そんなオバ記者が、“推し活”について冷静に分析する。
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いきなりだけど、人が恋に落ちる瞬間に久しぶりに立ち会ったの。30年来の仕事仲間のI氏(67才・男性)とお茶をしていたカフェに、女子大生のA菜(21才)が現れたのよ。
A菜は私の2才下の友人S子のお嬢さんで、私の読者だそうな。S子は「ちらっとでもいいからあなたに会いたいっていうのよ」って言うんだけど、まあ、世の中には変わった娘っ子がいるんだね。
「その子がこれからここに来るっていうんだけど、いいよね?」とI氏に言うと、聞こえたんだか聞こえなかったんだか。興味なさそうにコーヒーをすすっている。
なのによ! A菜が現れた途端、I氏の顔がみるみるこわばり出したの。長いつきあいの私は、彼の女性の好みを知りつくしている。なるほどA菜は彼のストライクゾーンだけど、なにせ初老の男と女子大生。あり得ないよ。
と思っているのは私だけじゃない。A菜もそうだから、就活のことなどI氏にずんずん質問していく。
彼は彼で、自分がかつて大手企業で新人採用を担当していたときのことを思い出したのか、口調がだんだんと高圧的になってきた。「あ、ダメダメ。その考えは甘い」って頭ごなし。それで後日、私は彼に聞いたわけ。「あのとき、何考えていたの(笑い)」と。
「いや~、参ったよ。気がついたときは、心を掴まれていてさ。同時に(年を考えろ)という自分もいて、心の中はもぅグチャグチャ。
そうか、オレ、そんなに上から目線で話していた? ダメなおっさんの典型じゃん(笑い)。彼女とオレ、接点なんかないのに、どうにかならないかって考えちゃったりしてなぁ」
妻も子も孫もいるI氏は、私からA菜の連絡先を聞き出せずにいる。そのとき、ある言葉がスッと降りてきたんだわ。「なるほどねぇ。こういうときに人は“推し”って言葉を使うんだね。対等な交際は無理でも“推し”なら年齢も関係ないし許される」と私。I氏は「推し? 出た!!(笑い)」と初めて声をあげて笑った。
かくいう私は誰かのファンになったことはほとんどない。玉置浩二の歌を聴きまくって名古屋や旭川まで追っかけをしたことがあるけれど、その熱も1年足らずで消滅した。
とはいえ、目の前に現れた好もしい男子の応援活動なら、したことがある。相手はたいがい道に迷った40代で、相手が必要としていることで私ができることがあるとうれしくってね。
ひとりの彼は、私に自分の彼女まで紹介してくれて、その彼女に私がご飯をごちそうしてあげたりして、まぁ、推し活というより母活だって。それでも応援する人がいるとこんなに力が湧くのかと、わがことながら感心しちゃった。
私に長いこと男っ気がないことを知っている友人は、「もし年下クンが『男女の仲になりたい』と言い出したらどうするのよ?」と私の顔を興味深そうに覗き込む。
「絶対にそれはないね。万が一、そんなことがあったら? お風呂に入るのだって面倒なのに、それ以外の場所で服を脱ぐなんて、ああ、イヤだ」
力を込めて否定しつつ、その実、ちょっとだけ心が弾んじゃう。推し活って、こういう妄想が土台になっているのかも、とそのとき実感した。