乳がんだと告知されたことを夫に告げた日、泣き崩れるパートナーの姿に強く心を動かされたと、だいたひかる(48才)は振り返る。
「台所に行ったまま戻って来ない夫の様子を見に行くと、ぶるぶる震えながら『おれと結婚してから、ひかるは1つもいいことがない』って泣いていたんです。ああ、この人は私の病気を自分のことのように受け止めてくれているんだなぁと思うと泣けてきて、ふたりでずっと台所で泣いていました」
がんが判明したのは、結婚してから数年が経った2016年のこと。不妊治療のクリニックに通っていたところ不正出血があり、検査を受けると乳がんが判明。不妊治療はやむなく中断して、右乳房の全摘手術を受けることを決めた。
「人間ってピンチになったときにその人らしさがすごく現れると思うんです。その意味で、がんは私にとって『リトマス試験紙』のようなものでした。もし夫にひどい対応をされてしまったら、離婚してひとりになってもいいとすら思っていたけれど、夫の優しさは私の想像を超えていた。がんになったことで彼がいかにいい夫であるかがよくわかったんです」(だいた・以下同)
特にだいたが強く覚えているのは、乳房を摘出することになって落ち込んだときにかけてもらった言葉だ。
「『欠けた器を金継ぎすると、味わいが増すよね。人間も同じで、たとえ胸がなくなっても、つらい経験や悲しみを乗り越えるから、味わい深い人間になっていくよ』。それを聞いて、胸を失ってもマイナスにはならない。むしろプラスになるんだと救われました」
とはいえ、治療を受けるのはだいたひとり。当初は病気や治療に負の印象を色濃く持っていたゆえに、緊張や不安の連続だった。
「がんは死の病だという思い込みも強かったし、抗がん剤を使うと副作用でのたうち回るほどつらいのではと思っておびえる日々でした。だけど実際に治療が始まると、想像と大きく違っていたんです。
まず驚いたのが、患者さんの見た目がキレイなこと。入院中でもみんな身だしなみをきちんと整えていて、お化粧もばっちり。『入院して、かえってキレイになった』なんておっしゃるかたもいて、私も刺激を受けて、パックや保湿をしっかりするようになりましたね。
外来で抗がん剤の点滴を受けていたときも、午前中に点滴を受けて、午後から仕事や育児をしている人も大勢いることに驚きました。私の場合、がんそのものに伴う痛みはなかったし、大きな制限なく日常生活を送ることができました。生活習慣病のようなつきあいができる病だと実感しています」