ライフ

キーウ出身の声優ディマさんが「耳おかしくない?」と言われたワケ【連載「日本語に分け入ったとき」】

工藤ディマさん

工藤ディマさん

 日本語を母語としないながらも、今は流暢でごく自然な日本語で活躍している外国出身者は、どのような道のりを経てそれほどまで日本語に習熟したのか。日本語教師の資格を持つライターの北村浩子氏がたずねていく。いまだ戦下にあるウクライナから昨年来日し、独学で習得した日本語で見事に今年声優デビューを果たした工藤ディマさんが今回のお相手。ディマさんの日本語文法や発音の学習方法は、日本語教師の北村氏には驚きの連続だった。【全4回の第1回】

 * * *

 工藤ディマさんはウクライナの首都キーウ出身。劇団ひまわりに所属し、演技の勉強をしている。今般、ウクライナ発のアニメーション映画『ストールンプリンセス:キーウの王女とルスラン』でデビューを飾った。もちろん日本語での吹き替えだ。

 活躍されている外国出身の声優さんと言えば、中国人の劉セイラさんをはじめ何人かの名前が思い浮かぶ。どの外国語でもそうだが、それぞれの言語が持つ『音の正確さ』を細部まで表現できるようになるには相当な訓練が必要だ。話せるようになるための練習とはまた違う、タイプの違う努力が。

 息の量を調節したり舌の位置を変えたりして『言葉の音』を作ることを調音という。鼻音や摩擦音など、調音にはたくさんの種類がある。母語に存在しない音を自然に出すには、その音を聞き分けた上で自分の口で(体で)再現しなければならない。『話す』だけなら、苦手な発音は似た音を作ることである程度代用できる。でも『きれいな(完全な)』発音を求められる現場ではそうはいかないだろう。ディマさんは高い山を登り始めているのだ。

 ディマさんが来日したのは、ロシアのウクライナ侵攻が始まった翌月の2022年3月だった。どのような経緯で日本に来ることになったのだろう。

「新大阪の日本語学校からビザを出してもらったことが、直接のきっかけです。元々留学したいという希望は伝えていたんですけど、学校が急いで準備してくれました。ウクライナからの避難民を日本が受け入れるという(日本政府の)決定があったのは、私が留学生ビザをもらった2週間後くらいでした。

 10代の頃から、日本のアニメや漫画を見たり読んだりしていて、日本語に興味はありました。と言っても当時は全然分からなかったので、ロシア語やウクライナ語に翻訳されたものだけ。でも、日本語の音は好きでした。響きが好きだったというか。

 で、大学に入ってゼロから勉強しようと思って、日本語や日本の歴史を学ぶ専門コースを取ったんですけど、残念ながら教科書は苦手でした。問題を解くためのものであって、情報を得るためのものではないと思いました」

 なんと! 

 どんな教科書でしたか? と尋ねたら、以前インタビューしたエマヌエルさんも使っていた(スタンダードな)『みんなの日本語』だった。いわゆる〈文法積み上げ式〉の教科書は合わなかったのか。

関連記事

トピックス

フジテレビの第三者委員会からヒアリングの打診があった石橋貴明
《離婚後も“石橋姓”名乗る鈴木保奈美の沈黙》セクハラ騒動の石橋貴明と“スープも冷めない距離”で生活する元夫婦の関係「何とかなるさっていう人でいたい」
NEWSポストセブン
原監督も心配する中居正広(写真は2021年)
「落ち着くことはないでしょ」中居正広氏の実兄が現在の心境を吐露「全く連絡取っていない」「そっとしておくのも優しさ」
NEWSポストセブン
休養を発表した中居正広
【独自】「ありえないよ…」中居正広氏の実兄が激白した“性暴力認定”への思い「母親が電話しても連絡が返ってこない」
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
〈山口組分裂抗争終結〉「体調が悪かろうが這ってでも来い」直参組長への“異例の招集状” 司忍組長を悩ます「七代目体制」
NEWSポストセブン
筑波大学の入学式に出席された悠仁さま(時事通信フォト)
「うなぎパイ渡せた!」悠仁さまに筑波大の学生らが“地元銘菓を渡すブーム”…実際に手渡された食品はどうなる
NEWSポストセブン
新年度も順調に仕事を増やし続けている森香澄
《各方面から引っ張りだこ》森香澄、“あざとかわいい”だけじゃない「実はすごいアナウンス力」、「SNSの使い方はピカイチ」
NEWSポストセブン
4月7日、天皇皇后両陛下は硫黄島へと出発された(撮影/JMPA)
雅子さま、大阪・沖縄・広島・長崎・モンゴルへのご公務で多忙な日々が続く 重大な懸念事項は、硫黄島訪問の強行日程の影響
女性セブン
女優の広末涼子容疑者が傷害容疑で現行犯逮捕された(左/時事通信フォト)
広末涼子の父親「話すことはありません…」 ふるさと・高知の地元住民からも落胆の声「朝ドラ『あんぱん』に水を差された」
NEWSポストセブン
SNSで出回る“セルフレジに硬貨を大量投入”動画(写真/イメージマート)
《コンビニ・イオン・スシローなどで撮影》セルフレジに“硬貨を大量投入”動画がSNSで出回る 悪ふざけなら「偽計業務妨害罪に該当する可能性がある」と弁護士が指摘 
NEWSポストセブン
筑波大学の入学式に出席された悠仁さま(撮影/JMPA)
悠仁さま、入学式で隣にいた新入生は筑附の同級生 少なくとも2人のクラスメートが筑波大学に進学、信頼できるご学友とともに充実した大学生活へ
女性セブン
都内にある広末涼子容疑者の自宅に、静岡県警の家宅捜査が入った
《ガサ入れでミカン箱大の押収品》広末涼子の同乗マネが重傷で捜索令状は「危険運転致傷」容疑…「懲役12年以下」の重い罰則も 広末は事故前に“多くの処方薬を服用”と発信
NEWSポストセブン
人気のお花見スポット・代々木公園で花見客を困らせる出来事が…(左/時事通信フォト)
《代々木公園花見“トイレ男女比問題”》「男性だけずるい」「40分近くも待たされました…」と女性客から怒りの声 運営事務所は「男性は立小便をされてしまう等の課題」
NEWSポストセブン