日本語を母語としないながらも、今は流暢でごく自然な日本語で活躍している外国出身者は、どのような道のりを経てそれほどまで日本語に習熟したのか。日本語教師の資格を持つライターの北村浩子氏がたずねていく。戦時下のウクライナから昨年来日し、今年声優デビューした工藤ディマさんは、声優になる方法も自ら手探りで開拓していった──。【全4回の第3回】
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耳を鍛えて日本語を覚えたという工藤ディマさん。ウクライナの大学で日本語のコースを取ってゼロから学び始めたものの、教科書での勉強は性に合わないと感じ、独学で我流の日本語を身に着けたと話してくれた。そんな彼が声優を目指し始めたきっかけは──。
「2018年、大学2年の夏のお尻に、人気声優の梶裕貴さんの生演技を動画で見て感動して『この人の隣に立ちたい』って思った。それが始まりです。そのあと、宮野真守さんの『DEATH NOTE』劇場版での狂気の演技を聞いて、自分もやりたいという気持ちが高まった。それが8月で、翌月9月からデモテープ作りを始めました。畏れながら、日本の事務所にも何回か送りました。
1本のテープを作ってそれを6つの事務所に送る、っていうのを5回くらいやったかな。返事がもらえたのは2回くらい。ボロボロに言われたこともあるけど、でもまあいっか、経験だしって思って、発音とイントネーションの勉強を頑張ってやりました」
母語話者と同じレベルの音声を獲得するのはもちろん大変だ。でも、多分ディマさんは『やれるだろう』と思っているのではないかと、話していて感じた。自信ありげというより、努力する方向や課題克服のポイントを、ディマさんは理解している。それは日本語の音の特徴を把握しているこんな言葉からもうかがえる。
「低音から高音になるパターンは分かっているんですけど、低音の高さをどうやって調節すればいいか分からない時がある」
たとえば、『にほんご』の発音は、『に』が低く『ほ』で上がり、その次の『んご』は『ほ』と同じ高さだ。『うつくしい』は『う』が低く『つ』で上がって『くし』は『つ』と同じ高さだが『い』で下がる。『いつも』は、最初の『い』が高く『つも』は低い。
ディマさんはこの中の『最初が低音』の単語の高さをどのくらいにしたらいいか悩む時がある、と言っているのだ。どのように音を取ったらナチュラルに聞こえるのか、細かいところまで考えていることが分かる。