日本語を母語としないながらも、今は流暢でごく自然な日本語で活躍している外国出身者は、どのような道のりを経てそれほどまで日本語に習熟したのか。日本語教師の資格を持つライターの北村浩子氏がたずねていく。9月公開の映画で見事に声優デビューした工藤ディマさんは、芸名を自らつけたという。【全4回の第4回】
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そう、工藤ディマ、という芸名についても聞きたかった。自分で付けたのですか?
「はい。4年くらい前かな? ニックネームとして使い始めました。私、本名はドミトリー・クドリャフツェフというんですけど、工場の工の字はクドリャフツェフのクから採りました。ドはドウという読み方もある藤。藤は花の名前でもあるから、『工藤』は花を作っている工場みたいなイメージで、いいなと思って。ドミトリーはギリシャ語で豊穣の女神の名前、デメテルから来てるので、それにも合う。
ただ、ドミトリー/デメテルのほうを漢字にするのが難しくて、じゃあカタカナでいこうか、ってなって、ディマにしました」
工藤は花の工場のイメージ。おお! なるほど、と思わず声が出た。このポピュラーな苗字を、そんな視点で見たことはなかった。ディマさんと話していてわくわくするのは、こちらが今まで気付かなかった日本語の貌(かお)を見せてくれるから。
「今、日本語で頭がいっぱいなので、両親と電話で話す時、ロシア語を思い出さなくて日本語が出る時もあります。
歴史を辿ると、ロシア語はソ連から強制的にいろんな国に導入されたから、母国語並みの言語になって……だからうちの家庭はロシア語とウクライナ語、半分半分くらい。ただ私、正直なところ、ウクライナ語がどんどん片言になってる。すぐ切り替えられない。ロシア語もすぐ出てこない時があります。憧れって何だっけ? 憧れを抱いてるってロシア語で何て言うんだっけ、みたいな」
日本語漬けの毎日だから、暮らしていてもう困ることはないですかね、と聞いたら、ディマさんは「いえ、あります」と答えた。「まだ加減が、」と言う。