自動車運転業務の年間時間外労働時間の上限が960時間に制限されることで発生する「2024年問題」は、主に物流業界の問題として語られることが多い。だが、それよりまえに危機を迎えているのが公共交通機関の運転者不足だ。なかでも、首都圏でも路線バスは人手不足から減便をせざるを得ない事態に陥っている。社会や経済の移り変わりと人々の暮らしを記録しつづける日野百草氏が、路線バス存続の危機についてレポートする。
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「日本中、バスなんて走るだけ赤字の路線ばかりだ。安い運賃でいくら運んでも儲けがでない。町から補助金が出たって儲からない仕事はしたくない、運転士だって薄給激務で大勢の命なんか預かりたくない。本音はどこも限界だと思う」
元バス運転士で現在は福祉施設のドライバーをしている男性の話、話のきっかけは大阪の金剛バスが路線バス事業を廃止すると発表したことだ。主に富田林、太子、河南、千早赤阪などを結ぶ路線だが、太子町と河南町はこの金剛バスが唯一の路線バスとなる。金剛バスはこの4つの自治体からの補助金を断って廃業を決断した。
「補助金を貰ったところで儲からない仕事をする道理はない。それに協力してもらっても肝心の運転士を連れてきてくれるわけでもない」
バスの運転をできる人が消え始めた。信じられない話だが、事実である。なお本稿、本旨ではないバス業界の専門用語や会社によって異なる事例などは平易に置き換えている。
時給換算すると最低賃金を下回ることもある
少子化と人口減、労働人口縮小にこれまでの現場に対する冷遇が、その悪化に拍車をかけている。
「もう金の問題ですらなく、誰もバスの運転士なんてやりたがらないし、バスの運転をできる人も日本から消え始めている。みんな見て見ぬふりで、取り返しのつかないことになり始めているように思う」
実際に営業レベルで仕事のできる運転士は急速に減っている。日本バス協会の聞き取り調査によれば、全国のバス会社では1万人のバス運転士が不足しているという。778社の回答だが、試算では2030年度には3万6000人ものバス運転士が不足する。つまり、ほとんどバスを運転する人がいない国になる可能性がある。
「大型二種の免許自体は絶対ではないが取ろうと思えば取れる。金も時間もかかるが取れる。しかし、それと現場に出せるかは別問題のように思う」