「6種類以上の薬をのむと副作用が倍増する」「のみ合わせを間違えれば、重篤な状態になることもある」──そうした「のみすぎる」ことの弊害は、いまや国家を挙げて取り組むべき問題にもなっている。にもかかわらず依然として多くの患者が多数の薬を服用し続けているのは、一体なぜなのか。
「よかれと思って言ったのに、ということが今月立て続けに起きて、もう心が折れそうです……」
都内内科クリニックの勤務医・Nさん(37才)はうなだれながらそう話す。
「“薬ののみすぎ”は医療費を逼迫させるし、なにより体に悪い。国を挙げての大問題になるから、うちの病院でもなるべく薬は最小限で治してもらおうと思って患者さんに“減らしましょう”と伝えたら『薬も出さずに終わるなんて手抜きじゃないか』『なんでもいいから出してください』のオンパレード。これじゃあ多剤処方の問題なんていつまで経っても解決しない。もう面倒だからだまって処方してしまおうか、と思いそうになるのをこらえる毎日です」
Nさんをはじめとして多剤併用の問題に真っ正面から取り組もうとする医師は決して少なくない。にもかかわらず「薬ののみすぎ」が簡単になくならないのは、患者側にも問題があるからだと北品川藤クリニック院長の石原藤樹さんは指摘する。
「日本は国民皆保険で自由に病院にかかることができるため、薬がほしいと言って受診すれば処方量はどんどん増えていきます。生活習慣病の薬をのんでいた人が、よく眠れないから睡眠薬、腰がちょっと痛いから鎮痛剤といったふうに、特段必要でもない薬が増えていく。患者さんが薬を求め、それを断りきれない医師が処方することが、多剤併用の一因だと考えられます。
最近も95才の患者さんに『その症状なら薬は不要』だと説明しましたが、高齢者は体の変化に敏感で不安ゆえに薬を希望する人が多い。患者側がもっと減薬に積極的になる必要もあります」(石原さん)
日本初の「薬やめる科」を設けた松田医院和漢堂院長の松田史彦さんは、「本人はともかく、周囲の家族が服薬を推奨しているケースもある」と話す。
「高齢者には周囲の影響で薬が必要だと思い込んでいる人が大勢いらっしゃいます。家族や友人から『血圧が高いとよくない』と言われて、『息子が言っていたから薬を出してくれ』などと言われることも珍しくない。まずはしっかりした知識を得て、患者から医師に減薬したいと申し出なければ何も始まらないのが現状です」