ライフ

茨城出身60代女性記者“方言”に対する本音「本気で怒ってるのに笑われたらどんなに切ないか、東京生まれにわかってたまるか」

“方言”に対する本音

“オバ記者”こと野原広子が方言について語る

 日本全国にある「方言」。上京した途端に方言から標準語にシフトする人も多い一方、方言がさまざまな交流を生むこともある。茨城県出身の『女性セブン』の名物ライター“オバ記者”こと野原広子が、茨城弁について綴る。

 * * *
「東北の人?」

 初対面の人からこう聞かれて、「いえ、茨城出身です」とムキになったのは何才くらいまでだったかしら。東京から西の生まれの人には、私の話す言葉が東北弁に聞こえるみたいなんだよね。

 茨城や栃木のような北関東の出身者が上京して苦労をするのは、言葉そのものは標準語とたいして変わらないのに、イントネーションとアクセントが決定的に違うから。しかも自分ではその違いがわからない。

「はし、取ってくれる?」「違う。はし、でしょ? 渡る橋じゃなくてお箸のことを言いたいんでしょ?」なんてやり取りを18才で上京してから何回したかしら。

「いいじゃない。どんどん茨城弁でしゃべったらいいじゃん。方言は素晴らしい日本語だよ」って、そう言うのは東京の人だけじゃない。大阪の人も大阪弁でそう言う。若いときは方言が原因で飲み屋でケンカになった。

「冗談じゃない。茨城弁でケンカしたらどうなると思う? あんた、絶対に笑うよ。本気になって怒っているのに笑われたらどんなに切ないか、東京生まれのあんたにわかってたまるかよ」

 酒の席の売り言葉に買い言葉。「イヤッ。絶対に笑わないから茨城弁で怒ってみて」と言われたら、私を止めるものはない。秒で茨城人になる私は、「ばが言ってんじゃねーッ。ごら。ちくばっか言って」と感情をこめて大声を出したとたん、「ぎゃははは。おかしー。ほんとに茨城の人ってそんな言葉、しゃべってるの?」だって(ちなみに「ちく」とは「ウソ」のこと)。それがいつの頃からか、タクシーに乗ると「お客さん、東京の人でしょ」と言われるようになったの。

 記者という職業柄、いろんな人にインタビューをする。そんなときはよそゆきの顔、よそゆきの声だから、標準語になっていると私は思っている。

 なのに、どうしたことか、「あなたはぼくと同じ福岡付近の生まれですか?」と言われたことがある。言った人は文学界の大御所、五木寛之さんだ。

 毎月、新刊の紹介とその著者にインタビューをする仕事で、さまざまな著名人にお会いしたけれど、五木さんほど緊張した人はいない。子供の頃から愛読していたし、何より五木さんは話し言葉がすでに文学。私は黙って拝聴して読者が読みやすいようにまとめればいい。そう思ったら急にもったいなくてたまらなくなった。

 せっかくご本人を前にして何をしているんだと。それで、「よし、聞こう」と決心したら、後は子供の頃に大勢でした縄跳びと一緒。呼吸を整えて、縄の中、じゃなくて五木さんのお話の途切れたところに自然に入り込むタイミングを計るだけ。

 そのときの質問は20年以上たったいまでもよく覚えている。それに対して、「あなたはぼくと同じ福岡付近……」と言ったときの柔和なお顔も忘れられるものではない。

関連キーワード

関連記事

トピックス

10月には10年ぶりとなるオリジナルアルバム『Precious Days』をリリースした竹内まりや
《結婚42周年》竹内まりや、夫・山下達郎とのあまりにも深い絆 「結婚は今世で12回目」夫婦の結びつきは“魂レベル”
女性セブン
騒動の発端となっているイギリス人女性(SNSより)
「父親と息子の両方と…」「タダで行為できます」で世界を騒がすイギリス人女性(25)の生い立ち 過激配信をサポートする元夫の存在
NEWSポストセブン
宇宙飛行士で京都大学大学院総合生存学館(思修館)特定教授の土井隆雄氏
《アポロ11号月面着陸から55年》宇宙飛行士・土井隆雄さんが語る、人類が再び月を目指す意義 「地球の外に活動領域を広げていくことは、人類の進歩にとって必然」
週刊ポスト
九州場所
九州場所「溜席の着物美人」の次は「浴衣地ワンピース女性」が続々 「四股名の入った服は応援タオル代わりになる」と桟敷で他にも2人が着用していた
NEWSポストセブン
初のフレンチコースの販売を開始した「ガスト」
《ガスト初のフレンチコースを販売》匿名の現役スタッフが明かした現場の混乱「やることは増えたが、時給は変わらず…」「土日の混雑が心配」
NEWSポストセブン
希代の名優として親しまれた西田敏行さん
《故郷・福島に埋葬してほしい》西田敏行さん、体に埋め込んでいた金属だらけだった遺骨 満身創痍でも堅忍して追求し続けた俳優業
女性セブン
佐々木朗希のメジャーでの活躍は待ち遠しいが……(時事通信フォト)
【ロッテファンの怒りに球団が回答】佐々木朗希のポスティング発表翌日の“自動課金”物議を醸す「ファンクラブ継続更新締め切り」騒動にどう答えるか
NEWSポストセブン
越前谷真将(まさよし)容疑者(49)
《“顔面ヘビタトゥー男”がコンビニ強盗》「割と優しい」「穏やかな人」近隣住民が明かした容疑者の素顔、朝の挨拶は「おあようございあす」
NEWSポストセブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
天皇陛下にとって百合子さまは大叔母にあたる(2024年11月、東京・港区。撮影/JMPA)
三笠宮妃百合子さまのご逝去に心を痛められ…天皇皇后両陛下と愛子さまが三笠宮邸を弔問
女性セブン
胴回りにコルセットを巻いて病院に到着した豊川悦司(2024年11月中旬)
《鎮痛剤も効かないほど…》豊川悦司、腰痛悪化で極秘手術 現在は家族のもとでリハビリ生活「愛娘との時間を充実させたい」父親としての思いも
女性セブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン