解散風が吹き荒れていた永田町に、突如「減税」議論が巻き起こった。「増税マシーン」と化した岸田文雄・首相が甘い言葉を口にするからには裏がある。首相の背後には、国民を欺く「増税のための偽装減税」を囁く財務官僚たちがいる。
財務省にとって好都合
「今こそ経済成長の果実を国民に還元すべきだ」。そう経済対策を打ち出した岸田首相が、はっきり「減税」という言葉を口にした。
「給付措置、減税、社会保障負担の軽減、インフラ投資はじめあらゆる手法を使う」(10月7日の茨城講演)
「増税クソメガネ」と呼ばれることを非常に気にしている首相は、減税を言い出さなければ支持率を回復できそうにない。国民の信頼を失って切羽詰まっているようだ。
だが、安易な人気取りの減税は政治家にとって“麻薬”ともいえる政策だ。首相がひとたびそれを口にすると、選挙を気にする自民党議員からは「消費税減税」「所得税減税」「給付金」を求める声が噴出し、歯止めが利かなくなっている。
自民党執行部は「ダイレクトに減税措置等々によって国民に還元」(茂木敏充・幹事長)「物価上昇対策には所得税減税が有効」(世耕弘成・参院幹事長)と足並みを揃え、公明党も「現実的な手法としては所得税が望ましい」(山口那津男・代表)と、低所得者への現金給付と所得税減税を政府に提案する方針だ。まるで“減税禁断症状”である。
その財源は税収増だ。国の税収は基幹3税と呼ばれる「所得税」「消費税」「法人税」がコロナ自粛下で増え続けて2020年度に過去最高の60.8兆円に達し、2022年度には71.1兆円とわずか2年間で、年ベースで10兆円以上増えた。しかも、「税収増は今年度以降も相当期待できる」(世耕氏)と見られている。
増税派の財務省は減税論に強く反対するかと思われたが、「総理に『成長の果実を国民に還元する』という言葉を囁いたのは財務省だ。表立っては賛成しないが、裏では減税を容認している」(自民党幹部)という。だから与党は色めき立った。
首相の側近中の側近で、これまで増税の旗振り役を務めてきた財務官僚出身の木原誠二・幹事長代理はネット番組で「岸田政権が増税政権だと言われている以上は、減税やりゃいいんだよ、やって示すしかない」と述べ、方針転換した理由をこう語っている。
「オレが役所に入ってから税収が増えたことってないんですよ。税収が増えない時代の財務省ってのは、出すもの減らすか、増税するしかない。だからオレなんか増税請負人みたいに言われてるけど、そういう風に育てられてるわけ、基本的に。
今はいよいよ税収が増える時代に入って、予算バンバン使う時代に入ってるのよ。1960年代、1970年代の財務省役人ってのはたとえば鉄は国家なりとかそういうとこにバンバンとカネつけてた。だけど今の財務省の役人、オレも同期たちも含めてそういう経験ないから。そういう予算編成をこれからするわけよ」(『魚屋のおっチャンネル』の対談)