「清く、正しく、美しく」を標榜する宝塚歌劇団で起きていたのは、そのモットーとは正反対の、陰湿で凄惨な「いじめ」だったのか。“被害者”の転落死という最悪の事態に折り重なるように、“加害者”にも仄暗い未来が待ち受ける──。
「わかってくれている人は、わかってくれていると思います……」
宝塚歌劇団・宙組トップスターの芹香斗亜の母親は、本誌『女性セブン』の問いかけにそう静かに応じた。前代未聞の事態に陥っている宝塚歌劇団。そして、いじめ疑惑の“加害者”とされた劇団員たちも、激震のさなかにいる。
10月20日、有愛きいさん(享年25)が所属していた宙組の宝塚大劇場(兵庫県)での公演が、11月5日までの全日程で中止することが発表された。さらに、11月10日に同劇場で開幕予定だった雪組の公演も、《生徒の心身のコンディションを最優先に対応》という歌劇団のコメントとともに、11月23日までの中止が発表された。
タカラジェンヌたちにとって、有愛さんの突然の死が、あまりに悲しくつらい現実だということなのだろう。外部の弁護士や医師、カウンセラーなど第三者による調査チームが発足し、ヒアリングと同時に精神的なケアを行っているが、調査には時間がかかる見込みだという。
「中止になった公演の内容は、この状況下で演じるにはあまりに酷なものでした。宙組の『PAGAD』には、登場人物の身投げや、ギロチンで処刑されるなどのショッキングな場面があります。また、10月15日から3日間の公演が中止になった、東京宝塚劇場での月組公演『フリューゲル -君がくれた翼-』にも、拳銃自殺を想起させる音響効果が用いられていました。
劇団員たちがいつものように平常心で舞台に立つことは到底不可能で、今後予定されている公演の開催可否はもちろん、演出やシナリオの変更などが求められている状況です」(宝塚関係者)
有愛さんは、9月30日土曜日の早朝に、自宅マンションから転落死した。有愛さんが出演する公演初日の翌朝だった。実はその日、有愛さんの両親は、愛娘のステージを観劇する予定だったという。
「有愛さんの双子の妹もタカラジェンヌで、雪組に所属する一禾あおさんです。大劇場で宙組の公演がある一方、大劇場の隣にある宝塚バウホールでは『宝塚舞踊会』が予定されていました。一禾さんは長唄『島の千歳』で日本舞踊を披露する3人のタカラジェンヌの1人でした。ご両親は、自宅のある京都から、娘2人の舞台を観劇しに、足を運んでいたそうです」(有愛さん一家の知人)
そこに飛び込んだのが、有愛さんの訃報だった。
「ところが、有愛さんの死の翌日である10月1日、一禾さんは舞台上に立っていたんです。周囲は、精神的に耐えられないだろうと出演しないことをすすめたんですが、一禾さんは“(共演する)ほかの2人の迷惑になるから”と、舞台に穴をあけることを頑なに拒んだそうです。
その時点で、亡くなったのが有愛さんとは発表されていませんでした。ですが、家族には伝えられていたはず。ファンの間でも、一禾さんのお姉さんが亡くなったと広まっていたぐらいですから……。舞台上の彼女は、手先、足先の動きまで繊細で美しかった。凜として舞台に立つ姿に、客席からはすすり泣く声も漏れていました」(観劇した人)