やることなすこと裏目裏目の岸田文雄・首相。旧統一教会(世界平和統一家庭連合)への解散命令を請求しても、支持率が上向くどころか逆に過去最低に落ち込み、人気取りの所得税減税を打ち出すと、国会の代表質問で自民党内から「国民が期待するリーダーとしての姿が示せていない」(世耕弘成・参院自民党幹事長)とこき下ろされる始末だ。
自民党ベテラン議員は、「岸田首相がまだ政権を保てているのは、後継首相のめぼしい候補が見当たらないというだけのことだ」と冷ややかに見ている。
ポスト安倍の最右翼とされるのは茂木敏充・幹事長だが、茂木派内には小渕優子・選対委員長を支持する勢力があり、自分の派閥をまとめきれていない。前回総裁選で岸田首相と争った河野太郎・デジタル相はマイナンバー問題でずっこけ、高市早苗・経済安保相は後ろ盾だった安倍晋三・元首相の死で勢いを失った。人材不足の自民党では岸田首相が外相に抜擢した岸田派の上川陽子・外相が「初の女性首相候補」に名前があがるほどだ。
そこに自民党内でさえノーマークのダークホースが浮上している。キングメーカーと呼ばれる麻生太郎・自民党副総裁の側近が打ち明ける。
「麻生さんは岸田政権を支えるつもりだが、岸田さんがコケたときは、ワンポイントで義弟の鈴木俊一・財務大臣(70)の登板を考えている」
鳴かず飛ばずの政治人生から“総理のチャンス”
鈴木氏は鈴木善幸・元首相の長男で、姉のちか子氏は麻生太郎夫人。いわゆる政界のサラブレッドだが、出世は遅かった。麻布高校、早稲田大を経て父の秘書を務め、1990年総選挙で引退した父の地盤を継いで初当選した。政界入りは岸田首相より1期上になる。
自民党では父が会長を務めた宏池会(現在の岸田派)に所属。水産族、厚労族議員として知られ、政治血脈的には「宏池会のプリンス」の1人のはずだが、そう呼ばれたことがない。当選4回で小泉内閣の環境大臣として初入閣(2002年)したものの、その後は目立ったポストに就けずに全くの鳴かず飛ばず。自民党OBはこう言う。
「鈴木さんは上に3人の姉がいる末っ子の長男で、性格はおとなしい。宏池会には東大卒の官僚OB議員が多く、政策力で議員を評価する傾向があるが、鈴木さんはあまり政策論議には参加しなかった。同じ早稲田出身でも宮沢喜一・元首相の親戚である岸田さんが派内で出世する一方、善幸さんの息子の俊一さんは宏池会では芽が出なかった」
ちなみに鈴木氏の妻は宮沢元首相の従兄弟で、宮沢家とも姻戚になる。安倍政権時代の2015年に長年所属した宏池会を退会、義兄の麻生氏が率いる麻生派入り(2016年)したのを契機に出世の道が拓けた。翌2017年には五輪担当相として15年ぶりに2回目の入閣。
内閣改造でいったん退任したが、後任の桜田義孝氏が「USB発言」などで辞任すると再び五輪相を務め、その後、自民党総務会長、さらに岸田内閣の発足で麻生氏が財務大臣から副総裁に転じると、「私にそんな大役を」と言いながら、後任の財務大臣に就任した。麻生氏の引きで出世の遅れを取り戻したと言える。麻生氏側近はこう語る。
「麻生さん自身も宏池会時代は芽が出なかったから、同じように不遇だった義弟の鈴木さんをなんとか男にしてやりたいと思っていた。鈴木さんはすでに財務大臣3期、環境大臣や五輪相を歴任し、自民党3役の総務会長も務めた。麻生さんは引退後は麻生派会長の座を鈴木さんに譲るつもりだから、派閥領袖への就任は確実。総理総裁の資格は十分にある。党内に敵も少なく、政治状況次第ではワンポイントで総理の芽はある」