ライフ

「手術至上主義」になりやすい日本の医療 “切れば治る”という患者の思い込み、実績増やしたい医師の思惑が影響か

「検査のための手術」が必要な場合もある(写真/PIXTA)

「検査のための手術」が必要な場合もある(写真/PIXTA)

アメリカは2割、ドイツは3割、スウェーデンは1割、日本は6割……これは何の数字か? 答えは高齢者で「月に1回以上、病院や診療所に行く人の割合」。日本人がいかに病院好きかを示すデータだ。そんな日本人の「病院信仰」は、「手術至上主義」とも言い換えられるという。日本では医師も患者も、治療の選択肢として手術を選ぶケースが圧倒的に多いのだ。医療経済ジャーナリストの室井一辰さんが言う。

「海外で行われるがん治療の56〜66%が放射線治療なのに対し、日本はわずか25%。それだけ手術を選択する人が多数を占めているということです」(室井さん)

 高額療養費制度により誰でも安い自己負担額で外科手術を受けられるのも理由の1つだが、国立がん研究センターで40年以上がん医療に携わってきた医療法人社団進興会理事長の森山紀之さんは、意識的な問題もあると指摘する。

「日本において外科医は“花形”。日本の外科手術の技術レベルが世界的に高いのは事実ですが、医師も患者も、手術に対する期待値が高すぎるとも言えます。“切れば治るんでしょう?”という患者の思い込みや、手術による実績を増やしたい医師の思惑が“手術至上主義”につながってしまっているように感じます」(森山さん)

 がんを根治する方法として「まず外科手術」とされているが、高齢者の場合は寝たきりや認知症につながることもあるので、放射線治療も選択肢に入れた方がいい。抗がん剤でがんを小さくしてから切除する方法も一般化しているうえ、小さいがんなら薬で根治させることも難しくはない現代において、一も二もなく「切りましょう」と判断するのは危険ですらあるのだ。ジャーナリストの岩澤倫彦さんは言う。

「早期の舌がんや乳がんは、放射線だけで根治できる場合があります。食道がんは、超早期の段階なら内視鏡での切除が有効ですが、粘膜下層にがんが浸潤した段階の選択肢は、外科手術や放射線治療。手術で食道を切除すると胃をつり上げることになり、食事を満足にとれなくなる場合もあるので、放射線治療も検討すべきでしょう。患者は各治療のメリットとデメリットを正確に把握して選択することが必要です」(岩澤さん)

 当然ながら、病気の種類によっては、手術をしたからといって完治するとは限らない。特に賛否両論あるのは、腰痛の手術だ。

「脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニアは手術による治療が一般的ですが、手術を受けても痛みは取り除けないことが少なくありません。それよりも筋トレなどをする『保存療法』の方が有効だという考えもあるほどです」(室井さん)

関連キーワード

関連記事

トピックス

ヴィクトリア皇太子と夫のダニエル王子を招かれた天皇皇后両陛下(2025年10月14日、時事通信フォト)
「同じシルバーのお召し物が素敵」皇后雅子さま、夕食会ファッションは“クール”で洗練されたセットアップコーデ
NEWSポストセブン
高校時代の青木被告(集合写真)
【長野立てこもり殺人事件判決】「絞首刑になるのは長く辛く苦しいので、そういう死に方は嫌だ」死刑を言い渡された犯人が逮捕前に語っていた極刑への思い
NEWSポストセブン
ラブホテルから出てくる小川晶・市長(左)とX氏
【前橋市・小川晶市長に問われる“市長の資質”】「高級外車のドアを既婚部下に開けさせ、後部座席に乗り込みラブホへ」証拠動画で浮かび上がった“釈明会見の矛盾”
週刊ポスト
米倉涼子を追い詰めたのはだれか(時事通信フォト)
《米倉涼子マトリガサ入れ報道の深層》ダンサー恋人だけではない「モラハラ疑惑」「覚醒剤で逮捕」「隠し子」…男性のトラブルに巻き込まれるパターンが多いその人生
週刊ポスト
問題は小川晶・市長に政治家としての資質が問われていること(時事通信フォト)
「ズバリ、彼女の魅力は顔だよ」前橋市・小川晶市長、“ラブホ通い”発覚後も熱烈支援者からは擁護の声、支援団体幹部「彼女を信じているよ」
週刊ポスト
新聞・テレビにとってなぜ「高市政権ができない」ほうが有り難いのか(時事通信フォト)
《自民党総裁選の予測も大外れ》解散風を煽り「自民苦戦」を書き立てる新聞・テレビから透けて見える“高市政権では政権中枢に食い込めない”メディアの事情
週刊ポスト
ソフトバンクの佐藤直樹(時事通信フォト)
【独自】ソフトバンクドラ1佐藤直樹が婚約者への顔面殴打で警察沙汰 女性は「殺されるかと思った」リーグ優勝に貢献した“鷹のスピードスター”が男女トラブル 双方被害届の泥沼
NEWSポストセブン
出廷した水原一平被告(共同通信フォト)
《水原一平を待ち続ける》最愛の妻・Aさんが“引っ越し”、夫婦で住んでいた「プール付きマンション」を解約…「一平さんしか家族がいない」明かされていた一途な思い
NEWSポストセブン
公務に臨まれるたびに、そのファッションが注目を集める秋篠宮家の次女・佳子さま(共同通信社)
「スタイリストはいないの?」秋篠宮家・佳子さまがお召しになった“クッキリ服”に賛否、世界各地のSNSやウェブサイトで反響広まる
NEWSポストセブン
司組長が到着した。傘をさすのは竹内照明・弘道会会長だ
「110年の山口組の歴史に汚点を残すのでは…」山口組・司忍組長、竹内照明若頭が狙う“総本部奪還作戦”【警察は「壊滅まで解除はない」と強硬姿勢】
NEWSポストセブン
「第72回日本伝統工芸展京都展」を視察された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年10月10日、撮影/JMPA)
《京都ではんなりファッション》佳子さま、シンプルなアイボリーのセットアップに華やかさをプラス 和柄のスカーフは室町時代から続く京都の老舗ブランド
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 電撃解散なら「高市自民240議席の激勝」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 電撃解散なら「高市自民240議席の激勝」ほか
NEWSポストセブン