公明党の得票力の源となってきたのが創価学会婦人部(現・女性部)だ。自民党が依存し、時に振り回されてきた最強の集票組織である。自公の協力関係が揺らぐなか、「最強組織」の内実にノンフィクション作家の広野真嗣氏が迫る。【前後編の前編。後編を読む】
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「私は、学会の歴史そのものを生きてきました」
“大物婦人部長”と呼ばれ、最強の集票組織「創価学会婦人部(2021年に女子部と統合して女性部に改称)」の中で尊敬を集めてきた1946年生まれの坂口幾代氏は、10月20日、直撃取材に動じる様子もなく、そう語った。
青と白のストライプのジャケットにパンツルック。日傘を下げた上品な佇まいからは、池田大作名誉会長から“妙法のジャンヌ・ダルク”の異名を授けられた闘士という印象は感じられない。だが、口を開けば弁は鋭い。
坂口氏は20分間の取材中、創価学会の平和運動に捧げた半生に話が及ぶと熱っぽく語気を強めた。
創価学会婦人部は、この国の政界で長きにわたり異様な存在感を見せてきた。一昨年の衆院選では、神奈川13区で自民党の甘利明氏が現職幹事長としては異例の敗北(比例復活)を喫したが、過去の金銭スキャンダルが総括されないまま要職に復帰したことが婦人部の不興を買い、公明支持層からの得票が伸び悩んだことが大きな要因と囁かれた。そうした“伝説”は永田町で枚挙に暇がない。
そんな婦人部の中心にいた坂口氏は筆者の問いに率直に答えた。ただ、詳細は後述するが、婦人部と執行部の間で囁かれる「溝」については言葉を濁した。
その11日前、筆者は「平和を語らない公明党」を目の当たりにしていた。
10月9日、埼玉県三郷市の駅前で次期党代表と目される石井啓一・幹事長が行なった15分間の街頭演説は、物価対策、治水対策、開通予定の有料道路の話。3つの話題を5分ずつ話す几帳面さはスマートだが、すべて「ご当地ソング」の話題で終わった。2日前、世界に衝撃を与えたハマスによるイスラエルへの砲撃には一言も触れなかった。
学会がこだわる平和をどう語るか、せめて紛争勃発に心を痛める言葉だけでも聞きたかったが、過剰な期待だったのか。それに、聞いている学会員は満足なのだろうか。
聴衆は熟年層の20人ほど。50代の女性学会員に聞くと「実績はすごいから」と石井氏をかばった。
「政党名だけで毛嫌いしたり、野党の嘘八百を信じる人もいるけれど、大臣や幹事長の実績が伝われば、小選挙区でも問題ないはずです」