かつて“二世タレント”と言えば、親の七光りに頼っているというイメージが強かったかもしれない。しかし、それも大きく変わっているという。活躍する二世俳優の魅力について、コラムニストで放送作家の山田美保子さんが綴る。
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「趣里チャンとはお互いの舞台を見たりはしていましたが共演は初めてです。女優としても人としても大好きなので、お声がけいただき、うれしかったです」
とは、趣里サン(33才)主演のNHK連続テレビ小説『ブギウギ』で、大阪の「梅丸少女歌劇団(USK)」第1期生の娘役として劇団を引っ張るトップスター・大和礼子役の蒼井優サン(38才)のコメントです。
10月20日、『あさイチ』(NHK)の「プレミアムトーク」に出演した蒼井サンは、このコメントとほぼ同様の話をし、出産後、悩んでいた連続ドラマ出演の背中を押したポイントの1つに“大好きな趣里チャン”の存在があったとも話しました。
蒼井サンといえば芸能界でいうと小泉今日子サン(57才)的な審美眼で立ち回り、クリエーターとしての顔を持つかた。そんな蒼井サンが趣里サンを「かわいい」「大好き」と公言すること、すごく理解できますし、趣里サン、幸せですよね。
『ブギウギ』の趣里サンは33才とは思えないほど可憐だし、確かにかわいい! トゥシューズを履いてレッスンする様子は、あぁやっぱりクラシックバレエに真剣に取り組んでいた人なのだなぁということが手足の指先までの美しい動きでわかり、いつも見惚れてしまいます。
水谷豊サン(71才)と伊藤蘭サン(68才)を両親に持つ、いわば“14光”女優ではあるものの、ご両親の影がほとんど感じられない希有な二世女優さんでもあります。
高校に進学するタイミングでイギリスにバレエ留学。しかし、アキレス腱断裂に足首の剥離骨折など度重なるけがを治療するために帰国し、高等学校卒業程度認定試験で大学入学の資格を得て、母の伊藤サンと同じ日本大学芸術学部演劇学科に入学……というプロフィールを拝見するだけでも、ものすごく根性があるかただということがわかりますよね。
2015年より現在の『トップコート』に所属するまでは、複数のプロダクションや劇団に所属したうえ、フリーの時代もあったといいます。
それを黙って見守っていらした水谷サンと伊藤サンもすばらしいなと思いました。娘や息子かわいさで、フツーこうはいかないものですから。
つまり、知り合いの事務所に頭を下げたり、自分の元で付き人やマネジャーをさせたりするのが多くの二世俳優や二世タレントの父や母です。
当然、趣里サンには女優としての“筋肉”がどんどん付いていき、2018年、映画『生きているだけで、愛。』が公開された翌年には『第42回日本アカデミー賞』で「新人俳優賞」、『第33回高崎映画祭』で「最優秀主演女優賞」を受賞。“若き個性派女優”として名を知られることとなりました。
果たして、近年、オファー(キャスティング)も少なくなかった朝ドラにおいて、『ブギウギ』は2471人が応募するオーディションが開催されることに。自身の年齢が、まさに応募年齢のギリギリだったことに背中を押された趣里サンは、オーディション組では最高齢の朝ドラヒロインとなったのです。
「気質は水谷豊似」とは母・伊藤蘭サンの弁ですが、『ブギウギ』で、すっぴんに近いメイクでレッスンに励む様子は、キャンディーズ時代のランちゃんによく似ていらっしゃる。“顔芸”というべき表情を頻繁に見せる様子は、『みごろ!たべごろ!笑いごろ!』(テレビ朝日系)でコントをしていらしたランちゃんのことを思い出してしまいました。
趣里サン出演のドラマの中で私がすごく印象的だったのは、2021年7月期の『ボイスII 110緊急指令室』(日本テレビ系)最終話なんです。役名ナシの“謎の女性”。文字通り、すべてが謎すぎたのですが、あまりの演技のすばらしさに「趣里チャンをメインにIIIを作ってほしい」とオンエア直後、プロデューサーにLINEしてしまったほどでした。表情だけですごい演技ができる女優さんなんですよね。
でも、歌手の笠置シヅ子さんをモデルにした『ブギウギ』ですから、今後はボイトレで育んだ美声でたくさん歌を聴かせてくださるハズ。さらに、多くのクリエーターのかたたちが趣里サン中心の企画を続々と考え、オファーの準備をしていると思われます。2024年の趣里サンの活躍がいまから本当に楽しみです。