コロナ給付金の対象外とされたことが話題にもなった。2020年9月、記者会見する性風俗事業者の代理人弁護士(時事通信フォト)

2020年9月、記者会見する性風俗事業者の代理人弁護士(時事通信フォト)

「人生はタイムリープでやり直せる」

 こうして被告が姿を消した法廷で続けられた初公判。公訴事実について弁護人は「事件全体を通して被告は責任能力はなかった」と無罪を主張し、「被告の訴訟能力そのものも争う」とした。従業員の殺人未遂については殺意がなく傷害罪にとどまるとも述べた。対する検察側は被告に完全責任能力があったと主張している。また被告が事件当時、自閉スペクトラム症であったことについては双方争わないとした。

 被告は中学を卒業後、普通科高校に進学したが、高校2年のときに自主退学。その後通信制の高校を卒業した。事件当時は無職で、両親や姉と暮らしていたという。

 検察側冒頭陳述によれば、被告は就職しても短期間で退職してしまうことから、「人生うまくいかない」と思い、過去に風俗でサービスを受けたAさんに対して好意を持っていたため、Aさんを殺害して自殺しようと思い立ったのだという。

 事件前日である2021年5月31日に、風俗店に予約の電話をかけた。Aさんを指名し、翌6月1日の15時からの予約を取った。当日には風俗店事務所を訪れ、リクエストシートに希望のサービスを記入し、支払いを済ませた。その後、ネットオークションで購入していた包丁と、Aさんを盗撮するためのiPodを持参し、ホテルに入室する。そして部屋に来たAさんとの行為の最中、Aさんが被告による盗撮に気づき、店舗に電話でこれを報告すると、被告は包丁でAさんの腹部を多数回刺したという。

 電話を受けた店舗の従業員がホテルの部屋まで出向き、ドアをノックすると、被告が部屋のドアを開け「プレイ中ですよ」と言い、ドアを閉めようとしたというが、従業員がドアの隙間に足を入れ、これを阻止した。すると被告はその従業員の腹部を包丁で刺し、後退りする従業員の首元や手も傷つけたという。Aさんは搬送された病院で死亡し、入院した従業員も全治3か月の怪我を負った。

 被告はその場から立ち去ったが、翌日、羽村市を原付バイクで走行中、捜査員に発見され逮捕された。iPodとロープを所持していたという。

 弁護側冒頭陳述で弁護人は、「被告は自閉スペクトラム症という障害を持っている」ことを挙げ、これが家族により見逃されたと主張した。被告は小学校の頃から担任教師に「クラスメイトとトラブルを起こす。課題についていくことができない」と指摘を受けていたが、両親はこれを放置してきたという。

 高校生のころにはトラブルが目立つようになり、複数の子に夢精の話をして周囲を戸惑わせたという。コンビニでバイトを始めたが、「スタッフとコミュニケーションが成立せず、短期間でやめる」こともあったのだそうだ。ところが両親がこれらを感知しても、サポートすることはなかったと弁護人は言う。

「父は『被告は子供っぽいだけ。時間が経てばなんとかなる』と言い、母はある宗教に熱心で活動が忙しく、被告と関わりを持つことがなかった。そのために障害が見落とされ、サポートを受けられず、苦手なことを学ぶ機会が奪われてきた」(弁護側冒頭陳述)

 そして事件直前のゴールデンウィーク、2月から勤め始めた会社をすぐに辞めていたことが父に発覚し、「働かざる者食うべからず」などと、激しい叱責を受ける。被告は父の言葉を間に受け、「自分は食う価値がない、生きる価値がない」と思うようになったという。そして最終的に、「人生はタイムリープでやり直せる、との確信を得ていき、事件に至った」と主張した。

 午後には、当時立川署に所属していた刑事が証人出廷し、事件直後の現場のすさまじさを語っている。

「現場のホテルに到着すると、5階の廊下には血が飛び散っており、506号室の前には男性が倒れているのを発見しました。呼びかけに応じないほど意識が混濁していた。506号室のドアには血のついた包丁が刺さっていた。ドアを解錠し中に入ると、ベッドと壁の隙間に上半身裸で全身多数の刺し傷があり、仰向けで倒れている女性を発見しました。意識はありませんでした……」(刑事の証言)

 事件当時の被告に完全責任能力はあったか否か。公判では今後、20数名の証人尋問が予定されている。

◆取材・文/高橋ユキ(フリーライター)

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