三味線の音色に合わせて物語を節で語る浄瑠璃の一派である「清元節」の一部が、「待遇改善」を求めて、家元や、歌舞伎興行主である松竹に対して何度も交渉し、ついには「舞台への出演を拒否する」ボイコット寸前までいくトラブルになっていた──。
歌舞伎座(東京・中央区)では目下、「吉例顔見世大歌舞伎」が開催中(11月25日まで)である。夜の部の第三幕で上演される演目「三社祭」には「歌舞伎界の若きプリンス」尾上右近(31才)と坂東巳之助(34才)が出演。2人の漁師が唄や三味線のリズムに合わせて、軽やかに舞う舞踊劇で、全編通してテンポが速く、躍動感にあふれた人気の演目である。その演奏を担っているのが、清元連中だ。
「清元連中の演奏者たちの待遇があまりにひどく、生活するにも困る状況が長らく続いているのです。中には、生活苦を理由に廃業した人もいます。待遇改善を何度も訴えているのに、一向に改善に向けた取り組みが行われないというのです」(演劇関係者)
現在の歌舞伎公演において、清元節を奏でる「清元連中」は演目の“伴奏者”として必要不可欠な存在である。2014年には、清元節は伝統芸能として重要無形文化財に指定。
右近の生まれは「清元節」の宗家。父は現在の家元である七代目清元延寿太夫(65才)だ。右近は歌舞伎役者でありながら、2018年に清元栄寿太夫を襲名した。
「清元連中は、10月に名古屋の御園座で上演された『片岡仁左衛門 坂東玉三郎 錦秋特別公演』でも演奏しました。同公演は2人の大物役者が出演するということで、チケットは売り切れで連日大入りでした」(公演関係者)
ところが、伝統演劇の中枢を担う清元連中の内部は、前述のようにガタガタの状態が続いているという。前出の演劇関係者が続ける。
「すべては、現在の家元が1989年に七代目延寿太夫を襲名したのが始まりでした。演奏者の歌舞伎公演の出演料は、興行側から家元に対して一括して支払われ、それを家元が各演奏者に分配する仕組みになっています。
ところが、いまの家元がお金を取り仕切るようになってから、演奏者の収入がガクンと減った。楽屋に用意されるお弁当の質も下がったといいます。そのため、日々の生活に窮する演奏者が多数、出てきてしまったそうです」
延寿太夫は、3才の頃に本名の岡村清太郎の名で歌舞伎の初舞台を踏み、その後は俳優として活動。大河ドラマ『新・平家物語』(NHK)への出演経験もある。その後、父・六代目延寿太夫の急逝を受け、1989年11月、歌舞伎座顔見世興行で七代目を襲名した。
一派の弟子たち(演奏者)は、歌舞伎だけでなく、日本舞踊の発表会などでの演奏の仕事を個人で請け負うことで、糊口をしのいでいる状態だという。