人はなぜ写真を撮るのか。思い出を記録するため、何かを伝えるため、自己表現のためなど、さまざまだろう。カメラ付き携帯、そしてスマートフォンの普及により「撮る」ということがインターネットで発信することと強く結びついた結果、投稿された写真によって困惑させられることが増えた。ライターの宮添優氏が、葬儀と写真をめぐる混乱と困惑をレポートする。
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スマートフォンの世帯保有割合は90.1%、個人の保有割合は77.3%と今や、国民のほとんどがスマホを所有するところとなった(総務省「令和4年通信利用動向調査」調べ)。街を歩けば、顔ほどのサイズもあるスマホを器用に操る子供、また、高齢者が四苦八苦しながら、スマホで何か調べ物をしている様子をあちこちで見かけるようになった。さらに、スマホの普及により撮影がかなり気軽にできるようになったことで「国民総カメラマン状態」といっていいほど、スマホユーザーは写真や動画を撮りまくるのである。
葬儀の祭壇の前で記念撮影
「旅行先とかおめでたい席で写真を撮るのはわかりますし、普通のことだと思います。でも、あれだけは許せなかった。その前にも、実は注意をしていたんです」
筆者の取材にこう打ち明けるのは、都内在住の高校教員・高橋祥子さん(仮名・50代)。約一年の闘病生活を送った母親が昨年、亡くなった。人格者だった母親の入院する病院は関西の実家近くにあり、親族だけでなく、高橋さんの旧友たちもひっきりなしに訪れ、母親を勇気づけてくれたと振り返るが、ある親族の見舞いについて、別の親族から高橋さんに問い合わせがあったという。
「母の見舞いに行った親族の一人が、母親がベッド上で寝ているところをスマホで勝手に撮影し、それをSNSに上げていたんです。投稿は”せっかく行ったけど寝ていた”という趣旨のものでしたが、入院中でしたから母親はノーメイクで髪もボサボサ。薬の影響で頭がぼーっとして寝ていたんだと思いますが、そんな姿をSNSで公開してしまったんです。本人に悪気がないのは理解しているつもりですが、母親がかわいそうでなりません」(高橋さん)
あくまでもこの親族は、善意で母の見舞いに行ったのであり、撮影したりSNSに上げるのも悪気がなかったのだと自分に言い聞かせた高橋さん。だが、母親が亡くなり、葬儀に来たこの親族は、高橋さんの感情を爆発させるような言動に終始したという。
「通夜の時から祭壇の写真を何枚も撮っていたかと思うと、お坊さんの読経の時にさえ”カシャカシャ”音が聞こえるんです。出棺の直前にも、この親族の案内で参列者を祭壇の前に並ばせて記念撮影して、葬儀場のスタッフさんが困惑していたほど」(高橋さん)