国内

【延命治療の難しさ】“やって後悔する”例も 大切なのは「自分の意思で決めること」元気なうちに話し合いを

「自分の口から食べたいものを食べる」ことも、最期の幸せに深くかかわる(写真/PIXTA)

「自分の口から食べたいものを食べる」ことも、最期の幸せに深くかかわる(写真/PIXTA)

 自分の最期の瞬間を想像してみる。家族は泣いてくれるだろうか、葬儀や財産はどうなるだろうか、痛みや苦しみはあるだろうか。そして、自分は「幸せ」に死んでいけるのだろうか──多くの「死」を間近で見てきた専門家たちは、口々に言う。「後悔せずにこの世を去るのは簡単ではないが、できることがある」と。

 自宅の介護用ベッドに横たわった高齢の男性は80代の末期がん患者。だがおもむろに鼻に差し込まれていた経鼻栄養チューブをするすると抜き、ペットの犬がひざに飛び乗る。さらに笑顔で酒やたばこをたしなみ、孫娘と記念撮影──この映像は、福井県で在宅医療をしていた男性の孫がSNSに投稿したもの。この一家を知る医療法人オレンジ理事長の紅谷浩之さんが語る。

「このかたは病院では“管だらけ”の状態でしたが、“どうせなら最後に思いっきり好きなことをしよう!”と、家族が難色を示す医師を押し切って自宅に連れ帰ったのです。

 するとみるみる元気になり、チューブでしか栄養を摂ることができなかったはずが、自分の口で好きなものを食べ、病院では当然禁止されていたお酒やたばこも楽しんで、最後にはなんと、車椅子で旅行できるまでになった。病院にいたら“最後に孫と愛犬に会いたかった”と、やり残したことだけが心に残ってしまっていたでしょう」

 もちろん、入院して延命治療を受ければ、亡くなる日を遅らせることはできる。だが一方で、最期の瞬間まで自分らしくいることは難しい。病院はあくまでも「病気を治す場所」であり、患者一人ひとりの人生や死生観が優先されるわけではないからだ。

「病院にいると、病気が“主語”になる。治療や延命を最優先した選択を迫られ、本来の希望を見失ってしまう患者も少なくありません。

 多くの医師が言う『生きる』『延命する』とはただ心臓を動かすことを指しますが、大切なのはそれだけではない。患者が『生きたい』と言うときは、単に心臓を動かしたいわけではなく“自分の人生をやりきりたい”という思いがあるはず。その声にどこまで耳を傾けられるかが、死の迎え方を変える一助となります」(紅谷さん)

「延命治療」は安易に決めないで

 愛知県のSさん(60代/女性)が振り返る。

「昨年亡くなった夫が脳出血で倒れたとき、医師から人工呼吸器をつけるかどうか判断を求められました。夫は日頃から“何かあっても、延命は嫌だ”と言っていたのですが、いざ意識を失った夫を目の前にしたら、延命を断ることなんてできませんでした。

 でも結局、夫が目を覚ますことはなかった。あれは夫にとって本当に意味のある治療だったのか、それともかえって苦しむ時間を延ばしてしまったのか……どうするのが正解だったのか、いまも考え続けています」

「延命治療は嫌だ」──そう家族に伝えている人も多いだろう。だがそもそも、その定義は非常にあいまい。安易に拒否するのも、承諾するのも、後悔につながりかねない。永寿総合病院がん診療支援・緩和ケアセンター長の廣橋猛さんが言う。

「人工呼吸器から心臓マッサージ、点滴による水分補給や胃ろうまで、すべて延命治療に入ります。苦しむ時間が延びるだけの過度な医療となることもあれば、拒否したことでお別れが早くなることもある。どの段階で治療をやめるかは非常に難しいため、あらかじめ具体的に話し合っておくことはとても重要です」

 看取りコミュニケーション講師で看護師の後閑愛実さんが語る。

関連キーワード

関連記事

トピックス

春の園遊会に参加された天皇皇后両陛下(2025年4月、東京・港区。撮影/JMPA)
《春の園遊会ファッション》皇后雅子さま、選択率高めのイエロー系の着物をワントーンで着こなし落ち着いた雰囲気に 
NEWSポストセブン
現在はアメリカで生活する元皇族の小室眞子さん(時事通信フォト)
《ゆったりすぎコートで話題》小室眞子さんに「マタニティコーデ?」との声 アメリカでの出産事情と“かかるお金”、そして“産後ケア”は…
NEWSポストセブン
逮捕された元琉球放送アナウンサーの大坪彩織被告(過去の公式サイトより)
「同僚に薬物混入」で逮捕・起訴された琉球放送の元女性アナウンサー、公式ブログで綴っていた“ポエム”の内容
週刊ポスト
まさに土俵際(写真/JMPA)
「退職報道」の裏で元・白鵬を悩ませる資金繰り難 タニマチは離れ、日本橋の一等地150坪も塩漬け状態で「固定資産税と金利を払い続けることに」
週刊ポスト
精力的な音楽活動を続けているASKA(時事通信フォト)
ASKAが10年ぶりにNHK「世界的音楽番組」に出演決定 局内では“慎重論”も、制作は「紅白目玉」としてオファー
NEWSポストセブン
2022年、公安部時代の増田美希子氏。(共同)
「警察庁で目を惹く華やかな “えんじ色ワンピ”で執務」増田美希子警視長(47)の知人らが証言する“本当の評判”と“高校時代ハイスペの萌芽”《福井県警本部長に内定》
NEWSポストセブン
ショーンK氏
《信頼関係があったメディアにも全部手のひらを返されて》ショーンKとの一問一答「もっとメディアに出たいと思ったことは一度もない」「僕はサンドバック状態ですから」
NEWSポストセブン
悠仁さまが大学内で撮影された写真や動画が“中国版インスタ”に多数投稿されている事態に(撮影/JMPA)
筑波大学に進学された悠仁さま、構内で撮影された写真や動画が“中国版インスタ”に多数投稿「皇室制度の根幹を揺るがす事態に発展しかねない」の指摘も
女性セブン
奈良公園と観光客が戯れる様子を投稿したショート動画が物議に(TikTokより、現在は削除ずみ)
《シカに目がいかない》奈良公園で女性観光客がしゃがむ姿などをアップ…投稿内容に物議「露出系とは違う」「無断公開では」
NEWSポストセブン
長女が誕生した大谷と真美子さん(アフロ)
《大谷翔平に長女が誕生》真美子さん「出産目前」に1人で訪れた場所 「ゆったり服」で大谷の白ポルシェに乗って
NEWSポストセブン
『続・続・最後から二番目の恋』でW主演を務める中井貴一と小泉今日子
なぜ11年ぶり続編『続・続・最後から二番目の恋』は好発進できたのか 小泉今日子と中井貴一、月9ドラマ30年ぶりW主演の“因縁と信頼” 
NEWSポストセブン
第一子出産に向け準備を進める真美子さん
【ベビー誕生の大谷翔平・真美子さんに大きな試練】出産後のドジャースは遠征だらけ「真美子さんが孤独を感じ、すれ違いになる懸念」指摘する声
女性セブン