「過去2年分の税収増を国民に還元する」──。ドヤ顔で所得税の定率減税を打ち出した岸田文雄・首相が“身内”から冷や水を浴びせられた。
「『還元』といっても税収は全部使ったうえで国債を発行している。それは還元ではない」
減税策をまとめる責任者の宮沢洋一・自民党税調会長がそう言えば、鈴木俊一・財務相も国会答弁で、「過去の税収増は、政策的経費や国債の償還に既に充てられてきた。減税をするとなると、国債の発行をしなければならない」と言い放った。
宮沢氏は言わずと知れた首相の従兄弟で財務官僚OB、鈴木氏は首相の後見人である麻生太郎・前財務相(現・自民党副総裁)の義弟である。
財務省とパイプが太い岸田ファミリーと麻生ファミリーが声を揃えて首相に異論を唱え、しかも、そのタイミングで神田憲次・財務副大臣が税金滞納問題で辞任し、政権には大打撃となった。
「総理が減税を掲げた途端に、財務副大臣が税金滞納なんてせっかくの還元をぶち壊しにするようなものだ」(自民党議員)
政界では「ついに財務省が首相を見限った」「減税潰しに動き出した」という見方が強まっている。ジャーナリストの長谷川幸洋氏(元東京・中日新聞論説副主幹)の指摘だ。
「所得税減税については11月2日の経済対策の閣議決定に、〈税収増を納税者である国民に分かりやすく「税」の形で直接還元する〉と書かれている。書いたのは財務官僚です。それを財務大臣が国会答弁で否定した。大臣答弁を書いたのも財務官僚ですから、背後から弓を射かけたようなものです。岸田首相は人気取りのつもりで減税を掲げたのに国民の評判は最悪、財務省はこれまで首相を支えてきたが、もう政権の先行きは見えたと見切りをつけたわけです。
そもそも国税庁が数年前に把握していたはずの税金滞納が、“身体検査”を通過して財務副大臣に就任した直後に明るみに出たことにも何らかの思惑を感じます」