漫画の神様、手塚治虫の名作『鉄腕アトム』。テレビアニメが放映されてから60年を迎えた2023年10月、色鮮やかに新たなアニメ作品として命を吹き込まれた。アトムはアメリカでは「アストロ・ボーイ」として熱狂的な人気だったことも大きな布石となり、このたびNetflix制作で全世界への配信が実現。早くも話題をさらっている。
今回、アニメ化されたのは、人気エピソード「鉄腕アトム 地上最大のロボット」をリメイクした漫画『PLUTO』。人間と高性能ロボットが共生する近未来を舞台に、刑事ロボット・ゲジヒトを主人公としたSFサスペンスとしてあの「アトム」の物語が再構築されている。
最強のロボットとして作られた「プルートゥ」が、アトムを含め世界最強といわれる7体のロボットに挑むが、ロボットたちは荒廃した戦場を目にして動揺したり、涙を流したり、感情を露わにする。
AIはどこまで進化するのか、感情を共有できるロボットと人間の境界はどこにあるのか──といったテーマも非常に現代的で、60年前の時点でこのことが描かれていた「アトム」の先見性に改めて気づかされる。
『鉄腕アトム』と『PLUTO』ではキャラクター造形や細かな設定に相違はあるが、いずれも戦うことへの批判が根底に流れている。世界の戦火がいまだ消えていない中で、「憎しみではなく相互理解が大事だ」というメッセージも古びるどころかむしろリアリティをもって感じられる「今」の物語なのだ。
※週刊ポスト2023年12月1日号