芸能

「どうしてこんなに切ないんだろう」『PLUTO』作者・浦沢直樹氏が手塚治虫作品から受け取ったメッセージと到達した答え

浦沢直樹氏が“手塚治虫さんから受け取ったメッセージ”を振り返る(撮影/藤岡雅樹)

浦沢直樹氏が“手塚治虫さんから受け取ったメッセージ”を振り返る(撮影/藤岡雅樹)

 テレビアニメ『鉄腕アトム』放映開始から60年。物語のなかでも屈指の人気を誇るエピソード「地上最大のロボット」をリメイクした漫画『PLUTO』がアニメ化され、Netflixで全世界に配信された。同作の作者の浦沢直樹氏に“手塚治虫さんから受け取ったメッセージ”について聞いた。

 * * *
 5歳の頃、手元に手塚治虫先生の光文社カッパ・コミックスが2冊あったんです。『ジャングル大帝』と『鉄腕アトム 地上最大のロボットの巻』この2冊で遊んでろ、と親に渡されて。だから何度も読んで、その度に「この胸の内から込み上げるような“切なさ”は何だろう」と思っていました。

 小学生の時、小学館から手塚全集が出た時も『地上最大のロボットの巻』を買って、やはり「どうしてこんなに切ないんだろう」と。その答えは大人になって『PLUTO』を描くことになり、少しずつ解明されていきました。

 リメイクにあたっては、手塚先生が描いた道筋を外れないようにしようというのが第一目的でしたね。原作のラストで、星空に亡くなったロボットたちの肖像が並ぶ場面は、『PLUTO』でも再現しようと決めていたんです。なぜならあの絵にこの物語の「切なさ」が込められているから。

 子ども時代に触れた漫画は勧善懲悪で「勝つ」ことが目的だったけれど、『地上最大のロボット』ではそこにまず疑問を投げかけていた。正義は勝つ、悪は滅びるというけれど、滅びた悪には必ず憎しみが残る。憎しみの感情はずっと消えずに繰り返される──手塚先生は僕たちにそう語りかけていたんです。ロボット同士が戦う話を描きながら、戦いを否定している。

『PLUTO』を通して手塚先生の想いに触れた人からは、“今語るべきはこの話題なのでは”といった声が聞かれます。世界の現状と照らし合わせ、わがことのように受け止める海外の方も多くいらっしゃる。

 でも、手塚先生のメッセージから60年間、この地球はまるで変わっていない。だからこそ今、このアニメを通じて世へ問いかける意味は大きいと感じています。

【プロフィール】
浦沢直樹(うらさわ・なおき)/1960年1月2日生まれ、東京都出身。1983年『BETA!!』でデビュー。代表作は『YAWARA!』『MONSTER』『20世紀少年』など。現在『あさドラ!』を連載中。『PLUTO』は全8巻で完結。

取材・文/渡部美也

※週刊ポスト2023年12月1日号

関連記事

トピックス

違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
《レーサム創業者が“薬物付け性パーティー”で逮捕》沈黙を破った奥本美穂容疑者が〈今世終了港区BBA〉〈留置所最高〉自虐ネタでインフルエンサー化
NEWSポストセブン
ソロとして音楽活動5周年を迎える香取慎吾
《ソロで音楽活動5周年》香取慎吾が語った「5人とは違って…」「もっとできるはずなのに」ソロで経験した“挫折” ライブツアーでは「パーフェクトビジネスアイドル」としてファンを沸かせる
NEWSポストセブン
13年ぶりの写真集『ふたたび』(双葉社)を5月30日に発売
小向美奈子 Xで「今年結婚します!」投稿の真意を本人に聞いた 今でも「年に1~2回くらいは求婚される」と語る彼女は“ダーリン”との未来予想図をどう描くのか
NEWSポストセブン
《女子バレー解説席に“ロンドン五輪メダル組”の台頭》日の丸を背負った元エース・大林素子に押し寄せる世代交代の波、6年前から「二拠点生活」の現在
《女子バレー解説席に“ロンドン五輪メダル組”の台頭》日の丸を背負った元エース・大林素子に押し寄せる世代交代の波、6年前から「二拠点生活」の現在
NEWSポストセブン
6月3日に亡くなった長嶋茂雄さんとの写真を公開した大谷翔平(公式インスタグラムより)
《さようなら長嶋茂雄さん》大谷翔平から石原裕次郎まで、誰からも愛された“ミスター”の人生をスターたちとの交流で振り返る 
女性セブン
沖縄を訪問される天皇皇后両陛下と長女・愛子さま(2025年6月4日、撮影/田中麻以)
《愛子さま 初めての沖縄ご訪問》ブルーのセットアップで母娘の“おそろい”コーデ再び! 雅子さまはくすみカラーで落ち着いた着こなしに
NEWSポストセブン
人気インフルエンサーがレイプドラッグの被害者に(Instagramより)
《海外の人気インフルエンサーが被害を告発》ワインに“デートレイプドラッグ”が混入…「何度も嘔吐し、意識を失った」「SIMカードが抜き取られていた」【オーストリア】
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《大谷翔平が帰宅直後にSNS投稿》真美子さんが「ゆったりニットの部屋着」に込めた“こだわり”と、義母のサポートを受ける“三世代子育て”の居心地
NEWSポストセブン
『激レアさんを連れてきた。』に出演するオードリー・若林正恭と弘中綾香アナウンサー
「絶対にネタ切れしない」「地上波に流せない人もいる」『激レアさんを連れてきた。』演出・舟橋政宏が明かす「番組を面白くする“唯一の心構え”」【連載・てれびのスキマ「テレビの冒険者たち」】
NEWSポストセブン
「ミスタープロ野球」として広く国民に親しまれた長嶋茂雄さん(時事通信フォト)
《“ミスター”長嶋茂雄さん逝去》次女・三奈が小走りで…看病で見せていた“父娘の絆”「楽しそうにしている父を見るのが私はすごくうれしくて」
NEWSポストセブン
現場には規制線がはられ、物々しい雰囲気だった
《中野区・刃物切りつけ》「ウワーーーーー!!」「殺される、許して!」“ヒゲ面の上裸男”が女性に馬乗りで……近隣住民が目撃した“恐怖の一幕”
NEWSポストセブン
シンガポールの元人気俳優が性被害を与えたとして逮捕された(Instagram/画像はイメージです)
避妊具拒否、ビール持参で、体調不良の15歳少女を襲った…シンガポール元トップ俳優(35)に実刑判決、母親は「初めての相手は、本当に彼女を愛してくれる人であるべきだった」
NEWSポストセブン