お茶の水博士に憧れた
日本化学会前副会長で大阪大学先導的学際研究機構・特任教授の三浦雅博氏(67)も『鉄腕アトム』に影響された一人。彼が化学者となった原風景にはアトム、そしてお茶の水博士がいた。
「昨年、化学好きな小中学生が集まる『化学だいすきクラブ』(日本化学会)へ寄稿し、『私と化学』と題して『鉄腕アトム』について書きました。
子どもたちが身近な漫画の話から興味を持って、将来、化学の道を志す子がいたらと考えたのです。それで、自分は幼少期にどんな漫画に影響を受けただろうと振り返り、浮かんだのがアトムでした」
三浦氏はアトムを支える人物に憧れた。
「アトムの機械的な面だけではなく、心の成長も見守るお茶の水博士が私は大好きでした。優しい博士の支えがあって、アトムはロボットでありながらも成長していく。その姿に感銘を受けました。お茶の水博士の影響で、自分も博士になりたいと夢見たのです。まだ世の中にない、新しくて人の役に立つものを自分も作れたらいいなぁと」
大学では有機合成化学を専門とした。
「例えば携帯電話の液晶の分子、有機ELの発光材料といった電子材料や医薬品など、豊かな現代社会を支えるものの多くが有機化合物です。その生成の方法論を研究し、世界中の有機化学者が使えるような新しい合成法の開発に携わってきました。
化学者としてここまで40年以上やってこられたのは、アトムを読んで博士になりたいと夢見た子ども時代の熱意をずっと持ち続けていられたことが大きいです。子どもたちへメッセージを書きながら、そう感じました」
(後編に続く)
※週刊ポスト2023年12月1日号