テレビアニメ『鉄腕アトム』放映開始から60年。同アニメは多くの少年たちの価値観に影響を与え、その後の人生を変えた。アトムに魅せられた人物のうち、様々な分野で最先端を走る人達の「原点」を聞いた。【前後編の前編。後編を読む】
科学技術と共生する
東京大学大学院情報学環教授、理化学研究所革新知能統合研究センター「科学技術と社会チーム」チームリーダーである佐倉統氏(63)は『鉄腕アトム』と出会い、科学技術と人間の関係に没頭。現在は、最前線で科学技術の発展に寄与している。
「1964年の東京五輪を機に父親がテレビを買って、『鉄腕アトム』に熱中。ロボット大好き少年でした。アトムは幼いのに力持ちで、人間のことを助けてくれる。時には人間の過ちだって正してくれます。『アトムみたいなロボットがそのうち本当にできるのかなぁ』と、想像を膨らませていました」
勇敢さを描いているだけではない。
「アトムには社会における人とロボットの関係性が重要なテーマとしてあると思う。ロボットと人間社会の関係がこの先、大事なテーマになると植え付けられました。今、科学技術社会論を専門として研究しているのも、原体験としてアトムがあるのは間違いありません。
中でも『青騎士』の話が象徴的です。ロボットが集団で反乱して『ロボタニア』という独立国建国を目指す物語で、社会問題として描かれていました。ロボットは人間に対して反乱を起こしましたが、手塚さんは人間と対立する存在としてロボットを描いたわけではなく、友達としてどう関係を築いていくかが重要だと伝えてくれたのでしょう。そこが他のロボット漫画と違って面白かった。
ロボットやAI技術の進歩が目覚ましい中、科学技術を警戒して規制するのではなく、互いに必要な関係として共生を図る──アトムはそんなメッセージを残してくれた」