今後は、母の病気、弟の出征、戦争による歌手活動への影響、運命の恋など、波瀾万丈の人生が加速。スズ子の歌は「ラッパと娘」や「センチメンタル・ダイナ」のようなパワフルなものばかりではなく、しっとり歌い上げるようなものもあるのでしょう。それどころか、「歌っている状況ではない」など、ここ3週で見せてきた必勝パターンがないケースも考えられます。
ただそれでも、ここまでの物語で感動してきた視聴者たちは、「翌週はあるかも」などと期待して待てるのではないでしょうか。さらに、スズ子だけでなく、淡谷のり子さんがモデルの茨田りつ子(菊地凛子)による歌唱シーンも感動を集めそうです。
最後に「5日かけて描いた人間ドラマをステージで締めくくる」という必勝パターンに話を戻すと特筆すべきは、制作サイドの決断力と趣里さんの奮闘。
「オープニングを含めて1話15分の朝ドラで、約3分の歌唱シーンを入れる」ことは簡単な決断ではないでしょう。他シーンの調整が求められるほか、ステージを「3分間もたせる」「週の締めくくりにふさわしいクオリティにする」などのハードルは高く、勇気ある制作姿勢がうかがえます。
また、ステージの放送時間が長くなるほど、歌と踊りのレベル、練習期間の確保、複数回の撮影に耐える体力など、さまざまな点で難易度がアップ。約3分にわたるフルコーラスの歌唱シーンを実現させるという決断によって、趣里さんの負担は増えていきます。
趣里さんは幼少期からクラシックバレエを習い、イギリス留学していたほか、その他のダンスも経験していた一方で、「歌は苦手意識がある」と不安を明かしていました。その状態から懸命なボイストレーニングを重ねて撮影に臨む真摯な姿勢が、視聴者の感動に直結しているのではないでしょうか。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。