彼女たちと向き合い、闘うぐらいの気持ちで書いた
小説ではなく、ノンフィクション+エッセイのようなこの本のスタイルは、予想外の展開をたどる彼女たちの恋愛を描く器として、ぴったり合っていると思う。
「恋愛小説を書いているときは、その人をわかってほしいから、『こういう恋愛してる』って、主人公と同じ方向を向いている感覚で書いていましたけど、今回は、彼女たちと向かい合って、闘うぐらいの感じで書きましたね。
30年ほど前にもいろんな人に話を聞いて恋愛エッセイを書いていて、それと比べると、今回の本は『共感はしない』を強調した部分があります。年の功というか、娘や姪の話を聞くみたいに、『それは違うでしょ』って言える立場になったんだなと、ちょっと感慨深くもありました」
穏やかな聴き手なのに時折、ピリっと辛口が出る唯川さんの文章には「恋愛というフィルターは目が粗い」「不倫は、することより、バレてからが本番」「始まりはふたりの意志が必要だが、終わりは片方の意志だけで決まる」などなど恋愛にまつわる名言・箴言がいくつも出てきて、書き留めておきたくなる。
「もし何か引っかかる言葉があるとしたら、きっとその人の恋愛が見えてくるでしょう。恋愛は常に手探りだし、それこそ『恋愛の達人』になったら安易に恋愛しないと思う。傷つきたくないなら、恋愛しないことが一番なんだから。結局すべての恋愛は失敗を学ぶためにあるんじゃないでしょうか。無茶苦茶な結論でごめんなさい」
そうかもしれない。ずしんと響く名言を最後にいただいた。
【プロフィール】
唯川恵(ゆいかわ・けい)/1955年生まれ。石川県金沢市生まれ。銀行勤務などを経て、1984年「海色の午後」でコバルト・ノベル大賞を受賞しデビュー。2002年『肩ごしの恋人』で直木賞、2008年『愛に似たもの』で柴田錬三郎賞を受賞。著作に『ため息の時間』『100万回の言い訳』『とける、とろける』『逢魔』など多数。本作は唯川さん初めての新書。現在は長野県・軽井沢在住。
取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2023年11月30日・12月7日号