飲食業界にとって得にならない
──確かに、そういったシーンが多いように感じました。
「僕としては、番組を通して『料理人になりたい』『飲食業界はおもしろそうだ』と思う若者が増えてくれればいいと願い、取材を引き受けていました。もちろん、社会へ出たばかりの若者に、苦労や悩みがあるのは当然です。ただ、それらを乗り越える子ではなく、諦めて辞めていく子ばかりを映したら、ウチの店にとっても飲食業界にとっても、なんの得にもならない」
──番組の最後では、新たに入ってきた20歳の青年が紹介されていました。
「坂上ですね。この子は無口だけど、『いつか自分の洋食屋を持ちたい』という目標を持っていて、芯がある。彼は大丈夫だと思いますよ。2年目の『ノンフィクション』から出ている『あかり』も、まじめにがんばっていて大丈夫。実は、今年の放送でウチを辞めていった『らいち』も、また戻ってきているんです」
──『らいち』さんは18歳で栃木から上京して、高校2年生から「レストラン大宮」で働くことを熱望していました。昨年9月に別のイタリア料理店への転職を理由に辞めていましたね。
「次に勤めていた店が潰れてしまって、田舎に帰るとか言ってるから、『バカ言うな、それならウチに戻ってくればいいじゃないか』って。今は東京駅前にあるウチの新丸ビル店で、先輩シェフと一緒に一生懸命やっていますよ。そうやってがんばっている若者の姿も、放送で観てもらいたかった」
──将来の夢を語る坂上くんを前に、「大事に育てます」という大宮シェフの言葉が印象的でした。長年、多くの若者を雇用し、料理人として育ててきたなかで、すぐに辞めてしまう若者と、長く続けられる若者を見分けるポイントはありますか?
「正直なところ、分からないですよね。毎回、『この子は大丈夫。続くだろう』と思って採用していますから。一人ひとり、性格も育った環境も違うので、一様に同じやり方を当てはめることはできない。仕事のやり方を指導するときにも、その子に合った方法を考えながら接しています。ただそれでも、半日で『辞めたい』と言い出す子もいる。相性みたいなものもあるかもしれませんね」
──さすがに、半日は驚きです。そんな若者がいる一方、着実に経験を積み、公邸料理人(大使や総領事の公邸で、料理によって日本の外交活動を支援する料理人)などの夢を実現させる料理人を、「レストラン大宮」では数多く輩出されていますね。
「元々ウチでは、『ずっとこの店に居続けて欲しい』という形では雇っていないんです。4~5年働いて技術を身に着けたら、次のステップとなる店を紹介したり、外国へ行きたいんだったら僕のコネクションを使って海外への道を繋いだりして、巣立たせるというスタイル。日本国大使館やフランスのレストランなど、今までに15人ほどの料理人を海外に送り出しています。去年、ベナンの日本国大使館で働く料理人がテレビ番組で紹介されましたが、彼も『レストラン大宮』出身です」