最終戦までもつれる激闘の末、38年ぶりの日本シリーズ制覇を果たした阪神タイガース。その戦いぶりをレジェンドOBはどう見たのか──。「黄金バッテリー」と呼ばれた江夏豊(75)と田淵幸一(77)が緊急対談。岡田彰布監督(65)の手腕から「4番の矜持」まで語り尽くす。
「大山はよう頑張った」
田淵:やっぱり阪神が勝つのは格別に嬉しいよな。
江夏:そりゃそうよ。ただ今年のセ・リーグはほかに脅威となるチームがいなかったな。選手の層はナンバーワンやったし、それを上手いこと使えるかどうかが、唯一の疑問やった。それを監督になった岡田が各選手の性格を見抜いて上手く起用した。色んな面でよく勉強していたと思う。
田淵:特に「四球を増やすスタイル」が大きい。犠打、犠飛を合わせた数字がリーグナンバーワン。やっぱり強いチームは細かい野球ができてる。2003年に星野(仙一)が監督でリーグ優勝した時、星野がキャンプで当時のオーナーの久万(俊二郎)さんに説教したの。「こんなカネの使い方したらいかん」って。そこで初めて球団が査定を変えた。4番が打って給料上がるのは当たり前。犠打、犠飛でも給料を上げるのが大事。その辺を岡田がフロントに直談判したらしいしな。
江夏:だって、選手を見てごらんなさいよ。大した選手いないんだもん。それでもチームがひとつになれば、大きく動かなくてもチームの戦力は上がってくる。そうさせたのは岡田の手腕だし、阪神からオリックスの監督をやった経験じゃないかな。
田淵:あと今年はピッチャーが良かった。若手も多かったしね。岡田野球のポイントは「堅い守備」だよ。相変わらず失策数は多いけど、試合の流れを変えるようなエラーは格段に減った。豊も言ったように、一番必要なものを加えられる監督を呼んだんじゃないの。あれは岡田がいた「早稲田野球」だよ(笑)。
江夏:守備位置を固定できたのも大きい。サード佐藤(輝明・24)、セカンド中野(拓夢・27)、ショート木浪(聖也・29)、ファースト大山(悠輔・28)。でもサードからファーストにコンバートされた大山、やっぱり傷ついたと思うよ。彼のプレーは派手さこそないけど、いいプレーがいっぱいあった。4番としても1年間ほんまによく頑張ったよな。ブチのほうがその辺、よくわかるんやない?
田淵:ヤクルトの村上(宗隆・23)より四球が多いんだからね。とにかく阪神ファンは4番に対して厳しいから、ダメな時の叩かれ方がハンパじゃない。「給料泥棒!」と野次られ、物は飛んでくるわ、車は落書きされるわ、昔は大変だったよ。
江夏:“アメとムチ”がすごかったな。
田淵:俺が西武に行って拍子抜けしたのは2三振、3三振しても「が~んばれ~田淵」だったこと。新生チームだから、ファンも野次のやり方がわかんないわけ。人間キツいことを言われると、カッとなる。豊なんて特にそうだけど、その怒りで成長する奴もいるからね。
江夏:今年のチームで言えば、大竹(耕太郎・28)かな。ソフトバンクを出されて、見返してやろうと死ぬ気でやってる感じがあった。俺と同じサウスポーでコントロール重視だしな。彼が出てきたのは阪神を救ったよ。