上野さんも「手を貸しすぎない」ことを心がける。
「年を重ねた人を前にすると、相手から言われる前につい手が出ちゃいそうになりますが、ぐっとこらえるのが肝心。監督には車のドアの開け閉めも自分でやってもらうし、モノを落としても『拾って』と頼まれるまで本人に任せます。その代わり、階段を下りるときは必ず階下で見守るなどの注意を払い、何かあればすぐに駆けつけられる距離に住んでいます。たまに『タケノコご飯作ったけど、どう?』なんて連絡が来て相伴にあずかります(笑い)」
現場では「有! だから言ったじゃない!」「ハイハイ!」「もう限界だよ!」と声を張り上げて言い合うことも多い親子だが、スープの冷めない距離に住む娘の厳しくも温かい見守りが健康長寿を支える面もありそうだ。
足が悪く車椅子を使うことが多い山田さんだが、普段からできるだけ自力で歩くことを心がけている。
「最初から車椅子にドンと乗って面倒をみさせてはダメになるばかりよ。だから長い距離は無理だけど、できるだけ自分の足で歩こうと思っています。努力して歩いていればトイレの面倒もみてもらわずすむでしょ。そもそも私は昔から仕事でもプライベートでも人を頼ることが性に合わず、好きなことをひとりの力で開拓したい。どんなに落ちぶれても独立独歩で歩いていくのが好きなの」(山田さん)
上野さんは「母の何よりの健康の秘訣は『使命を持つ』ことだと思う」と続ける。
「お客さんが『本当にありがとう』と言ってくれる映画を世に出すという使命が監督にはあります。世の中に役に立っているという意識があるから、本人も周りも幸せなのでしょう」
世の女性に寄り添いながら、憤り、涙を流し、駆けずり回ってきた山田さんは「運命を嘆くよりも使命を持ってほしい」と呼びかける。
「確かに昔と比べたら女性を取り巻く環境は格段によくなりました。男が弱くなったと言えるかもしれないけれど……(苦笑)。にもかかわらず若い人に話を聞くと整形したり、めかしこんだりして『いい男を捕まえて楽に暮らそう』なんて思っている人も多いように感じて、悲しくなってしまう。そんなふうに考えているうちは自立できない。女の人はよく『私って何て運が悪いのかしら……』というけれど、運なんて切り開くもの。私が映画を撮り続けている理由の1つは、女性に立ち上がってもらいたいからです。そうじゃないとこの国は危ないのだから」(山田さん)
真っすぐ前を見つめて力強くそう語りながら、早くも次回作に思いを寄せる。
「いまは沖縄と戦争の問題が気になっています。終活って何? 亡くなる準備なんて考えたこともないわよ。私はきっとひっくり返って“あら死んじゃった”ってな具合に、入院もしないで逝くんじゃないかな。ただ娘たちには、大きなところでお葬式をやってお香典をたくさん集めて、映画の借金を埋めなさいって言ってます(笑い)」
(了。第1回から読む)
※女性セブン2023年12月14日号