戦争の苦難にもがきながら、もっと大きなスター歌手になりたいと奮闘するヒロイン・スズ子(趣里、33)の瞳の先にはいつも師である羽鳥善一(草なぎ剛、49)がいる──。NHK朝ドラ『ブギウギ』で描かれるヒロインと天才作曲家の「師弟愛」が、とにかく素敵なのだ。
2人の師弟関係が強固になったのは、スズ子が1.5倍の給料を提示されたライバル会社への移籍騒動を乗り越えた時だ。“日本ポップス界の父“と称される作曲家の服部良一さんをモデルにした羽鳥は、「これを見ても君の心が変わらないなら仕方がない」とスズ子のために作っていた曲の楽譜を渡し、スズ子も師が手がけた歌を歌いたいという自分の思いに気づく。メディア文化評論家の碓井広義氏が語る。
「大騒動を起こしてしまい、“自分には歌う資格がない“と落ち込むスズ子に羽鳥が『これからも人生にはいろいろある。まだまだこんなもんじゃない。嬉しい時は気持ちよく歌って、辛い時はやけのやんぱちで歌うんだ!』と語ります。
このセリフは、その時々の感情のまま歌って表現するというスズ子の原点を気づかせると同時に、“ショービジネスはそんな甘っちょろいものではないよ“とこの世界で生きる覚悟を伝える意味も込められている。羽鳥とスズ子の師弟愛が伝わる場面でした」
戦時下で自由に歌えなくなり思い悩むスズ子に対し、自らの信念を貫く歌手・茨田りつ子(菊地凛子)の公演のチケットを渡すなど、スズ子が奮起するような機会をさりげなくアシストするのも羽鳥だった。
切っても切れない
たまたま初回放送を観て『ブギウギ』にハマっているというお笑いタレントの村上ショージ(68)は、自身の師匠と重ねてこう振り返る。
「僕は20歳を過ぎて吉本に入り、ほんわかした雰囲気で優しそうだった滝あきら師匠に弟子入りを志願したんです。声を荒らげることもなく生き様も面白い人で、義理人情を大切にする師匠でした。飄々としていつも優しそうな表情を浮かべている『ブギウギ』の羽鳥さんに雰囲気が似ています。
ただ、羽鳥さんのように熱心に指導するタイプではなく、師匠は僕に対して『このネタ面白いか』とよく意見を求められました。面白くないなんて言えないからどんなネタにも『はい! 面白いです』と言うてましたら、師匠は舞台に出てスベっていました(笑)。僕の『スベり芸』は師匠譲りかもしれません」
スズ子と羽鳥のように、昭和の時代に師匠のもとで学ぶことができたのは幸せだったと村上は語る。
「今は若い芸人でも賞レースに出てドンと売れるし、ユーチューブなどで人気が出ればメシを食べていけます。師匠のもとで修業しなくても自力で道を切り拓けるのは悪いことではない。でも『弟子入りさせてください』と言ってくる若手もいなくなり、昔ながらの師弟関係がなくなったのは少し寂しいですね。
だからこそ『ブギウギ』で描かれる師弟関係は僕ら世代にどストライクで、お互いを認め合って高め合う2人を見ると、師匠とのことも思い出して温かい気持ちになります。僕には50過ぎた弟子もいますが、師匠と弟子というのは切っても切れない関係なんです」