ネット上で出会った相手に“愛の言葉”を囁き、大金を騙し取る「国際ロマンス詐欺」──その犯行に手を染め、約4億円を騙し取ったグループの“主犯格”として、ガーナで逮捕された日本人がいる。ノンフィクションライターの水谷竹秀氏が追った。【前後編の前編。後編を読む】
「なぜ警察発表を信じるのか」
大阪拘置所の面会室に現われた男はパジャマ姿で、病的なほど色白だった。目の下はたるみ、口を開くと前歯がなかった。
「はじめまして。送っていただいた手紙は読みました。いつも公判にも来てますよね」
アクリル板越しにそう語った男は、森川光被告(60)だ。国際ロマンス詐欺に関与したとして西アフリカ・ガーナの首都アクラで拘束され、昨年8月、日本へ強制送還された。詐欺罪などで起訴され、現在、大阪地裁で審理が続いている。
報道によると、森川はガーナを拠点とする犯行グループの“主犯格”として、日本人男女ら65人から総額約3.9億円を騙し取ったとされる。このグループにいて逮捕された日本人男性は、森川を含め8人ほど。現地にいるガーナ人も8人加担しており、ガーナ側の主犯格で“ブルー・コフィ”の異名を持つナナ・コフィ・ボアテイン(34)は米国へ逃亡中だ。
日本人とガーナ人による謎の国際犯罪組織──。私は今年6月に『ルポ 国際ロマンス詐欺』(小学館新書)を上梓し、ロマンス詐欺犯がナイジェリアやガーナなどの西アフリカを拠点に暗躍している実態を書いた。その取材時に森川の逮捕が報じられたため、“主犯格”である森川と接見すれば、犯行の実像に迫れるのではないかと思ったのだ。
だが、今年5月に初めて面会した森川は、報じられた「3.9億円」という莫大な金額の割に身なりがみすぼらしく、大阪府警が公開手配した時のごつい顔写真とは異なり、げっそりしていた。
「ガーナで体重が20キロぐらい落ちました」
そう語る森川は果たして、ガーナの組織でどのような役割を担い、いかなる手口で大金を騙し取ったのか。疑問をぶつけようとしたが、森川はこう言ったのだ。
「私は“主犯格”などではありません。なぜ警察発表を信じるのですか」
「メディアには4億と書かれていますが、実際には1億もいってないし、私は報酬を受け取っていません」
自分の都合の良いように語っているだけかもしれないが、それでも森川の発言には戸惑いを隠せなかった。彼は本当に犯行の実態を知らないのか。