NHKの連続テレビ小説『ブギウギ』で、思うように歌えないヒロイン・スズ子(趣里、33)がどんな苦難も乗り越えることができるのは、師と仰ぐ作曲家・羽鳥善一(草なぎ剛、49)の存在があったからだ。令和の時代にはなかなか見られない「師弟関係」に惹かれる視聴者も多い。『ブギウギ』の制作統括を務める福岡利武氏が、その制作秘話を語った。
劇中で、大スターを目指すスズ子(趣里)と羽鳥(草なぎ)は、音楽を通じた強い信頼関係で結ばれている。そんな師弟関係をどう描くのかは、『ブギウギ』の構想段階から練られていたという。
「資料などを色々と読むと、2人のキャラクターのモデルになっている笠置シヅ子さんと服部良一さんも、強い信頼関係で結ばれていたことが伝わってきます。服部さんは歌やエンターテインメントへの情熱を非常にお持ちで、それを体現できるのは笠置シヅ子しかいないという思いで音楽を作ってきた。笠置さんと服部さんが“純粋に良いものを生み出そう”という思いを共有している関係が素敵だなぁと思いまして、そのような関係性をドラマでも強調して描きたいと思っていました。
ドラマと同様、笠置シヅ子さんは若かりし頃に服部良一さんに才能を見出され、厳しいレッスンを受けていたそうです。笠置さんのステージは人を楽しい気持ちにさせてくれますが、裏では、それを生み出すまでの苦労や厳しいレッスンがあった。そういった部分もぜひドラマで描ければと考えました。多少脚色もしていますが、新しいもの、面白いものを作ろうという2人の強くてピュアな思いをドラマからも汲み取っていけたらなと思っていました」
昭和の時代には珍しくなかった師弟関係だが、今の時代はともすればパワハラとも受け止められかねない。その表現の難しさを「嬉しい誤算」で解決したのが、草なぎ剛の起用だったという。草なぎ演じる羽鳥はいつも笑顔で、どこか掴みどころのないようなコミカルさもあり、厳しい指導のシーンも不思議と悲壮感はない。
「草なぎさんに明るい役をやってもらいたい」
「僕は大河ドラマ『青天を衝け』(2021年)でも草なぎさんとご一緒していますが、その時、草なぎさんが演じたのは“最後の将軍”徳川慶喜で複雑な感情を抱える難しい役柄でした。一方、撮影現場でお話しさせていただくと、草なぎさんご自身が持つ明るさが素敵だなと思っていました。それで次にドラマで一緒させていただく機会があれば、明るい役をやってもらいたいなと、なんとなく思っていたんです。
今回、『ブギウギ』を制作するにあたり、キーマンである羽鳥善一は音楽への純粋な思いを持ち、戦争の時代でも明るさを失わない前向きなキャラクターにしたかった。朝ドラということもあるし、ヒロインの身近には明るいキャラクターを置きたいな、と。それで草なぎさんがピッタリだと思い、オファーしました。
資料などを読むと、善一のモデルとなった服部良一さんも非常に前向きで、人が好きな方だったらしく、色んな人たちを自宅に呼んで一緒にご飯を食べたり、意見交換をしていたそうです。また、劇中で善一は『軍歌なんて作りたくない』と言っていますが、服部良一さんも軍歌は苦手だったらしく、人の感情を揺さぶるような歌を作りたいという思いをお持ちだったようです。
そして実際に草なぎさんのお芝居を見ると、こちらが想像していた倍以上、明るく前向きな善一を作り上げていただいたのは嬉しい誤算でした。草なぎさん演じる善一からは純粋な音楽への思いがあふれ出していて、何気ないセリフでもハッとさせられる場面もあり、いつまでも見ていられるような素敵なキャラクターになっていた。善一役を草なぎさんにお願いして本当に良かったなと思いました」