それまで朝ドラには馴染みがなかった層からも高い支持を得ているNHKの連続テレビ小説『ブギウギ』。お笑いタレントの村上ショージ(68)もその一人だ。なかでも劇中で描かれるヒロイン・スズ子(趣里、33)と作曲家の羽鳥善一(草なぎ剛、49)の「師弟関係」に注目しているという。
たまたま初回放送を観て『ブギウギ』にすっかりハマっているという村上ショージはこう語る。
「毎日観ていると、ほんわかする場面も毎回出てきて、ストーリーや登場人物もすごく面白い。ヒロインを演じる女優さん(趣里)は演技が上手いなぁと思って調べてみたら、水谷豊さんと伊藤蘭さんの娘さんだと知って『えー!』と驚きましたわ。
モデルになった笠置シヅ子さんが小柄でパワフルな人だったし、彼女は役柄にもすごく合ってると思う。今までの朝ドラだと大阪弁に違和感を覚えることもあったんだけど、彼女は東京の人なのに大阪弁も上手いですしね」
滝あきら師匠と明石家さんまさん
物語は戦時下、思うように歌えないスズ子(趣里)にとって、師である羽鳥善一(草なぎ)は自分を導いてくれる欠かせない存在だ。劇中では、そんな2人の理想的な「師弟関係」が描かれている。
そして村上自身も、お笑いの世界で「師弟関係」を築いてきた。
「僕らの世界(お笑い)の師弟関係は特殊だったので、笠置シヅ子さんと服部良一先生のような師弟関係とはまた少し異なるとは思います。僕が吉本に入ったのは20歳を少し過ぎた頃でしたが、今のようなお笑いの養成学校はなくて、面接を受けて吉本に入った後、最初は舞台の雑用など裏方の仕事をするんです。それから、自分で師匠を選んで『弟子にしてください』と頼むのですが、僕は厳しい師匠にはつきたくなかった。今の時代には考えられないけど、当時は理不尽に怒られたり殴られたりすることもありましたからね。やすきよ師匠(横山やすし・西川きよし)なんかは厳しかったので、お弟子さんたちを見てて大変そうだなぁと思っていた。それで、僕は雑用をしながら色んな師匠たちを観察して、ほんわかした雰囲気で優しそうだった滝あきら師匠に弟子入りを志願したんです。
滝あきら師匠は声を荒らげたりすることもなく、生き様も面白い人でした。『ブギウギ』の草なぎさん演じる羽鳥も飄々としていつも優しそうな表情をしてますけど、そういうところは僕の師匠と少し雰囲気が似ています。ただ、羽鳥さんとは違い、師匠はあれこれ熱心に指導をしてくれるというタイプではなく、逆に僕に対して『このネタ面白いか?』と意見をよく求めてきた。師匠が作ったネタを『面白くない』なんて言えませんから、僕はどんなネタでも『はい!面白いです!』と言うてました。そのネタで師匠は舞台に出てスベッていましたけどね(笑)。僕は後年、“すべり芸”などと言われるようになりましたが、師匠譲りなのかもしれません。師匠は30年ほど前(1992年)に70歳で亡くなってしまいましたが、若い頃に師匠から学んだことは、その後も僕の中にずっと根付いています。
そして明石家さんまさんについては師匠というわけではなく、よく面倒を見てくれる“兄さん”という感じですね。同い年ですけど、僕がお笑いの世界に入る前からテレビ番組で活躍していて、僕はさんまさんのファンだったんです。吉本に入ってから、さんまさんに声をかけてもらったり、コーヒーを飲みに連れて行ってもらったりするようになったんです。もう付き合いも古いので、何を言うても許してもらえる間柄ですが、さんまさんがいたからこそ、今の僕があると思っています」
かつての師匠や“兄さん”のように、村上自身にも弟子がいる。一輪車パフォーマーのベン山形(48)だ。
「人には出来ることと出来ないことがあるので、『こうやらないとアカン』みたいなことを一方的に押し付けても、出来ないことは出来ない。だから出来ることをちょっとでも伸ばしてあげたいという思いで色々とアドバイスをしてきたのですが、ベン山形はなかなか育たないんですよ。サボテンみたいな奴で、根が育たない(笑)。『お前、お笑いはもうやめて山形に帰れ』と言ったこともあるのですが、彼もやっぱりこの世界が好きなんでしょうね。すごく頑張り屋だし、お笑いが好きなことは分かるんですよ。
僕には『くるくるコミック』というコンビのよね(よね皮ホホ肉、53)という弟子もいるんです。もう50歳を過ぎているので、しょっちゅう会ったりアドバイスしたりすることはありませんが、師匠と弟子という関係性はずっと変わりません。つい先日も、よねに仕事を斡旋しましたよ。ドバイの野外ステージで3日間、コンビでコントを披露するというなかなか豪勢な仕事でね。僕のところにオファーが来たんだけど、僕はスケジュールが合わなかったので、会社(吉本興業)に相談して、代わりによねのコンビを行かせたんですよ。よねもベン山形もしょうもない奴ですけど、僕にとっては切っても切れない関係ですね」