SNSで出会った相手に「I love you!」などのメッセージを送り、直接会ったこともない被害者から大金を奪い取る「国際ロマンス詐欺」の被害が急増している。その犯行で約4億円を騙し取ったと報じられたグループの“主犯格”として、ガーナで逮捕された日本人に判決が下された。この事件の取材、傍聴を続けるノンフィクションライターで、『ルポ 国際ロマンス詐欺』の著書がある水谷竹秀氏がレポートする。(文中敬称略)
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12月7日午後1時半、大阪地裁第101号法廷。
ドアが開くと、ジャケットを着たその男がゆっくりした足取りで入ってきた。弁護側の長椅子に腰を下ろし、間もなくして裁判長が現れると、職員から手錠と腰縄を外された。
「被告人は前に来てください」
裁判長からの呼びかけに、男は証言台の椅子に座った。
「これから判決を言い渡しますが、最後に言っておきたいことはありますか」
少し間があって、男は口を開いた。
「まあ、裁判とかわかんなかったんで、言い忘れたことは……」
声が小さすぎて傍聴席まで聞こえないが、特に多くは語らなかった。続けて裁判長から判決が言い渡された。
「主文、被告人を懲役10年及び罰金200万円の刑に処する」
被告人の男は、西アフリカのガーナを拠点に、国際ロマンス詐欺を繰り返した犯行グループの主犯格とされる森川光被告(60)だ。日本人男女30人から総額1.1億円を騙し取ったとして詐欺罪などに問われ、この日の判決公判を迎えた。グループには森川含め日本人の男が8人、ガーナ人の共犯者も8人ほどいて、ガーナ人の主犯格、ナナ・コフィ・ボアテイン(34)は米国へ逃亡中である。メディアでは「65人から約4億円を詐取」などと報じられたが、証拠不十分などで全てを立件できなかったものとみられる。
判決の前日、私は大阪拘置所で森川に面会をしていた。判決が言い渡される前の心境を尋ねると、不敵な笑みを浮かべた森川から、こんな言葉が返ってきた。
「そう聞かれると思っていましたよ。はっきり言って何とも思っていません。若い検察官が公判で色々なことを言っていましたけど、こんなガキに俺のガーナでの苦労が分かってたまるかって思いました。気分悪いですね。どうせ良い判決は出やしないから、次に向けて準備をしていこうと。控訴を考えています」
森川がガーナの首都アクラで逮捕され、日本に強制送還されたのは昨年8月上旬。以来、私は何度か面会を申請したが、共犯者がいたために接見禁止状態が続いていた。それがようやく解除され、面会が初めて実現したのは今年5月半ばのことだった。
以来、今回で18回目の面会となり、受け取った手紙は16通に上る。それらのやり取りから、国際ロマンス詐欺の関与に至るまでの森川の半生が浮かび上がってきた。