安倍長期政権下でも懐事情はあまり変わらなかった。
「安倍政権時代に多くの業界の陳情窓口となっていたのはもっぱら二階俊博・元幹事長だった。安倍派は最大派閥にはなったものの、多くは資金基盤の弱い安倍チルドレン。幹部にも業界を仕切れるような実力者はほとんどいない。近年の安倍派がらみのスキャンダルを見ても、森友学園問題、加計学園問題、五輪汚職など、安倍派が伝統的に影響力を持っていた文教・スポーツ関係が目立つ。他の業界には資金パイプが広がっていないのでしょう。
そのうえ、安倍派では派閥の人数が増えたから100人もの議員にモチ代、氷代を他派並みの200万円配るだけで2億円の資金がいる。だからなりふり構わぬカネ集めをする必要があったのではないか」(野上氏)
「秘密後援会」の手口
その過程で編み出されたのがキックバックという手法だとみられている。所属議員にノルマを課して派閥のパーティー券を売らせ、ノルマを超えた分の代金は議員に“裏金”として戻す。
パーティー券のキックバックの仕組みは他の派閥にもあるとされるが、安倍派の裏金の金額が突出しているのは、最大派閥で資金力のない若手議員を多く抱えているという事情があった。そのため、議員たちに「パー券販売」を競わせることで派閥資金を太らせるしかなかったのだ。
前出の安倍派中堅議員の秘書が言う。
「要するに領袖や幹部たちでは派閥を資金的に支えきれないから、氷代、モチ代は自分で稼げというわけです。いまや派閥は議員の互助会。それでも、ノルマを達成しないと、人事でいいポストをもらえないからパー券を売るしかない。営業力のある幹部たちは、ノルマ以上を売ってキックバックを稼ごうとする。最大派閥の実態は歩合制の『パー券営業マン』の集団になった」
こうした“裏金づくり”のスキームの原型を辿ると、本誌・週刊ポストが2006年に報じた安倍晋三・元首相の秘密後援会「安晋会」の手口に行き着く。
安晋会は2003年、有力なベンチャー企業経営者などを集めて盛大な安倍氏の幹事長就任パーティーなどを開催していた団体で、その一部を安倍氏に“キックバック”していたとされる。ところが、安倍氏の関連政治団体として届けられておらず、本来は政治資金パーティーを開催できない任意団体だった。