自民党の最大派閥「清和政策研究会(安倍派)」の裏金疑惑は、“令和のリクルート事件”と呼ばれて政権を揺るがしている。安倍派がこうして“裏金”に頼らなければならなかったのには訳がある。それは派閥の歴史を紐解いていくとわかる。保守傍流で業界団体などの利権を他派閥に奪われていた安倍派が編み出した“集金システム”の全貌とは──。
最大派閥にもかかわらず弱い“集金力”
安倍派の裏金疑惑の捜査はいよいよ所属議員に及び、東京地検特捜部が秘書たちの事情聴取を開始すると、派内にはパニックが広がっている。同派中堅議員の秘書が焦った口調でこうぶちまけた。
「はっきり言って、うちは派閥から資金の面倒を見てもらっていない。毎年、上納する金のほうが多いくらいですよ」
所属議員99人を抱え、自民党最大派閥として権勢をほしいままにしてきた安倍派だが、実は、集金力は弱い。
派閥が盆暮れに議員に配る「氷代」「モチ代」と呼ばれる活動資金の金額を比べるとよくわかる。
各派の政治資金収支報告書(令和4年度)によると、5大派閥のうち茂木派、岸田派、麻生派、二階派は盆と暮れに約100万円ずつ、合計約200万円をほとんどの所属議員に配っているが、安倍派は約50万円ずつの合計約100万円。他派の半分なのだ。
「派閥に納める会費は若手議員が年60万円、大臣経験者は120万円。さらに当選回数によってパーティー券の販売ノルマが若手は50枚(100万円)、ベテランになると100枚(200万円)などと決まっていて、売れなくてもその分の代金を上納しなければならない。会費とノルマで若手でも160万円を派閥に納めるから、盆暮れに合計100万円もらっても赤字になる」(同前)
“隙間”の業界が資金源
派閥の領袖は多くの議員を養うことで力を持つ。そのためにカネとポストの面倒を見る。どの派閥も、大臣を経験して資金力がついた幹部からは資金を上納させ、議員に配る仕組みをとってきた。
だが、安倍派は伝統的に自民党の主要派閥の中で資金基盤が弱く、議員を養うために無理をしてきたのだという。そのことが今回の裏金問題につながっている。
安倍派の歴史に詳しい政治ジャーナリスト・野上忠興氏が指摘する。
「自民党で保守本流と呼ばれる宏池会(岸田派)は官僚出身議員が多く、伝統的に財界主流をスポンサーにしてきた。田中派の流れを汲む平成研(茂木派)は多くの族議員を抱え、建設業界、医師会、歯科医師会、農業団体、特定郵便局長会といった業界団体に強かった。
しかし、傍流だった清和会(安倍派)は有力な資金源と集票マシンを保守本流派閥に押さえられて手を出せなかった。影響力があった業界は文教関係と運輸業界ぐらい。そこで新興企業など“隙間”の業界に資金源を求めたわけです。その一方で旧統一教会(世界平和統一家庭連合)との結びつきを強めることで弱い集票力をカバーしてきた」