加齢とともに体重が増えやすくなり、常にダイエットに勤しんでいる人は少なくない。しかし、脂肪のつき方には2種類ある。“見える脂肪”か“見えない脂肪”か―年を重ねたら、撃退すべきは見えない脂肪の方だった!
目次
監修・取材
・石原新菜さん(イシハラクリニック副院長)
・磯村優貴恵さん(管理栄養士・料理家)
・金丸絵里加さん(管理栄養士)
・佐藤留美さん(医学博士・呼吸器内科専門医)
・佐野こころさん(医学博士)
・伊達友美さん(管理栄養士・戸板女子短期大学食物栄養科ビューティ&ウェルネス講師)
・谷本哲也さん(ナビタスクリニック院長)
・前田あきこさん(管理栄養士)
・望月理恵子さん(管理栄養士)
日本人は遺伝的に内臓脂肪がつきやすい?
忘年会やクリスマスなど、つい食べすぎてしまう機会が多くなるこの時期。「私は太ってないから大丈夫」なんて楽観していてはいけない。体重は増えていなくても、内臓にたっぷり脂肪がついた“隠れ肥満”になっている可能性があるからだ。
日本人は遺伝的に内臓脂肪がつきやすい体質で、その特徴は手足やおしりはやせているのに、ウエストまわりだけが大きくなるというもの。日本では男性の肥満者の90%以上が内臓脂肪型という研究結果もあり、女性も更年期以降は内臓脂肪がつきやすくなる。また、内臓脂肪はダイエットの“難敵”どころか、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの罹患率を上昇させ、脳卒中や心筋梗塞といった死に至る病のリスクを高めることが明らかになっているのだ。
イシハラクリニック副院長の石原新菜さんが内臓脂肪の危険性について解説する。 「内臓脂肪が増えると、悪玉コレステロールが増加し、それが動脈硬化を招く。
その動脈硬化が高血圧や糖尿病、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こすことにつながるのです。アルツハイマー型認知症のリスクも上がり、健康リスク的には『皮下脂肪』とは比べものになりません」 そもそも内臓脂肪とはなにか。医学博士で呼吸器内科専門医の佐藤留美さんが言う。 「脂肪には大きく分けて皮下脂肪と内臓脂肪があり、内臓脂肪は肝臓、すい臓、腎臓など内臓まわりの腸間膜に蓄積されるものです。
内臓脂肪が増える原因は、端的に言えば食事から摂取したエネルギーが消費エネルギーを上回るから。糖質や脂質の摂りすぎ、運動不足、基礎代謝の低下などによって摂取エネルギーが余ると、肝臓で中性脂肪が合成され内臓脂肪として蓄えられることになります。
ゆっくりと定着して落ちにくい皮下脂肪と比べると、蓄積が速い。そのぶん燃焼も速いので、日頃の生活を改善することで落としやすいともいえます」
血液サラサラ効果!オメガ3脂肪酸を含む「最強の食品」
内臓脂肪を減らし、さらにつきにくくする最強の食品と究極の習慣を、専門医と食の専門家が全力回答してくれた。
「最強の食品」として強い支持を得たのは、1位の「さば」、2位の「いわし」といった青魚。その理由は、青魚に含まれる不飽和脂肪酸の一種、オメガ3脂肪酸にあった。管理栄養士の金丸絵里加さんが言う。
「オメガ3脂肪酸のEPAとDHAには血液をサラサラにする効果があり、血栓の予防や、血液中の中性脂肪や悪玉コレステロールを減らす働きが期待できます。血糖値を一定に保つ役割のインスリンの働きを正常に保つアディポネクチンも増やします」
さばを自身の1位に推した管理栄養士の望月理恵子さんもこう続ける。
「さばは青魚の中でもDHAの含有量が可食部あたりでトップクラス。食事で摂りすぎた栄養分が内臓脂肪に変わるのを防ぐ働きをしてくれます。EPAも豊富なので、代謝アップにも効果的です」 オメガ3脂肪酸は、青魚の脂に含まれるので“脂がのった”魚を食べるとよいと言うのは、管理栄養士の前田あきこさんだ。
「オメガ3脂肪酸は、内臓脂肪や皮下脂肪として体内に蓄積されにくい性質があります。青魚に限っては、EPAとDHAが含まれている“脂がたっぷり”の方が、内臓脂肪がつきにくい。ただしカロリーが高いので食べすぎないように注意しましょう」
食物繊維を摂取するコツとイチオシの食べ物は?
4位の「きのこ類」、6位の「海藻類」に共通するのは食物繊維が豊富なこと。内臓脂肪がたまる一因は糖の過剰摂取による血糖値の上昇だが、それをゆるやかにするのが食物繊維だ。医学博士の佐野こころさんが解説する。
「食物繊維を食事の初めに食べることで、糖質や脂質の消化・吸収がおだやかになり、血糖値の急上昇を防ぐことができます。さらに食物繊維には余分なコレステロールや脂質を吸着して排出する効果もあります」
石原さんもこう続ける。 「血糖値が上がると大量のインスリンが出て、その際に血糖が内臓脂肪に取り込まれる。血糖値の急上昇を抑え、インスリンを抑制するために、普段の食事に食物繊維を“ちょい足し”することを意識してください」
ナビタスクリニック院長で内科医の谷本哲也さんは「どちらも低カロリー」とメリットを挙げたうえで、こう指摘する。
「きのこには不溶性食物繊維が多く、海藻には水溶性食物繊維が多い。両者をバランスよく摂取することで腸内環境を改善し、脂肪蓄積を防いでくれます」
きのこ類のなかで望月さんがイチオシするのは、まいたけだ。
「きのこ類には不溶性食物繊維のβグルカンが豊富ですが、なかでもまいたけはトップクラス。さらに整腸作用や中性脂肪の排出・分解の働きがあるMXフラクションという成分が含まれており、内臓脂肪を落とすのに役立ちます」
管理栄養士で料理家の磯村優貴恵さんは、海藻のメリットをこう強調する。
「あのヌルヌルとした部分に水溶性食物繊維が多く含まれていて、糖の吸収をおだやかにしてくれる。腸内環境を整え、生活習慣病の予防にも役立ちます」
きのこや海藻の効果をより高めるための調理のコツがあるという。
「両方とも細かく刻んで断面を多くしておくと、水溶性食物繊維が外に出やすくなって、効果がアップします」(前田さん)
食物繊維の効果が期待されるのは8位の「ごぼう」も同様だ。金丸さんは、海藻と同じ2位に推す。
「ごぼうに含まれるイヌリンという食物繊維は内臓脂肪を減らすために有効で、腸内で短鎖脂肪酸を生み出しやすくし、やせやすい体をサポートします」
毎日大さじ1杯の酢で生活習慣予防
3位の「酢・黒酢」は、豊富に含まれる酢酸などのアミノ酸に注目が集まった。
「酢大さじ1杯(15ml)を毎日摂り続けると、内臓脂肪が減少するという研究結果もある。酢酸による過剰な脂肪を減らす作用によるものと分析されています」(佐野さん)
石原さんは自身の1位に酢を挙げた。
「酢酸やクエン酸が脂肪を燃やしてくれます。内臓脂肪を減らすだけでなく、血液をサラサラにしコレステロールや血糖値を下げるなどの効果があり、生活習慣病予防につながります」(石原さん) 「納豆」(7位)など「大豆製品」(5位)を支持する声も多かった。
「植物性たんぱく質がバランスよく含まれているうえ、ビタミンB群も豊富。脂肪の燃焼を助けるアディポネクチンを増やす成分も多く含んでいるといわれています」(金丸さん)
女性ホルモンに似た作用を持つ大豆イソフラボンも強い味方になる。
「女性ホルモンは代謝にかかわるホルモンなので、40代以降に女性ホルモンが減少することで太りやすくなり脂肪がつきやすくなる。大豆を摂ると、減少した女性ホルモンの働きを補えます」(石原さん)
大豆製品の中でも、みそを強く推したのは管理栄養士の伊達友美さんだ。
「みそには大豆ペプチドが含まれていて、大豆たんぱくのアミノ酸が効率的に吸収されやすい。エネルギー代謝や脂肪燃焼を促進し、コレステロールを整える働きもあるので、内臓脂肪を減らすのに効果的です。大豆ペプチドは加熱しても損失しないので、みそ汁やみそ煮込みなど温かい料理として摂れば、体の冷えを改善し、脂肪の蓄積を防いでくれます」
「究極の習慣」ランキング圧倒的1位の運動とは?
内臓脂肪を減らすためには、最強食品を摂りながら、毎日の習慣を改善していくことも必要だ。「究極の習慣」として、2位に大きな差をつけて圧倒的1位になったのは、「有酸素運動」だった。
「ウオーキング、ジョギング、水泳、サイクリングなど、週に数回の定期的な有酸素運動には、効率的にカロリーを消費し、新陳代謝を高め、脂肪燃焼を促進する効果があります」(谷本さん)
谷本さんが話すように、有酸素運動の中でも多くの識者が挙げたのがウオーキング。その最大のメリットは、日常生活に取り入れやすいことにある。磯村さんが言う。
「いつもより一駅分多く歩く、エスカレーターではなく階段を使う、早歩きをするといった積み重ねが脂肪を燃焼しやすい体作りにつながります」
佐藤さんによれば、ウオーキングは「ランニングと比較すると、時間をかけて脂肪を燃焼するので、毎日30分以上行う」のが目安。さらに伊達さんはこうアドバイス。
「体脂肪を燃焼するには空腹時が最も効果的。ウオーキングなどの有酸素運動は、できれば食事の前に行うのが理想的です」
6位にランクインした「無酸素運動」と組み合わせれば、より高い効果が得られると話すのは佐野さんだ。
「週に3回以上の有酸素運動に加えて、無酸素運動の代表格である筋トレなどを行うと、基礎代謝量が高まり脂肪燃焼効果がよりアップします」
気をつけたい食事の仕方とタイミング
2位にランクインしたのは「よく噛んで食べる」こと。
「早食いすると、満腹感を感じる前にたくさん食べてしまいがち。これでは血糖値が急上昇して脂肪が蓄積しやすくなってしまいます。ゆっくりよく噛んで食べることで満腹中枢が刺激され、無理なく食べる量を減らすことができるのです。噛んで唾液をしっかり出すことは、消化をサポートすることにもつながります」(望月さん)
1日3食の中で内臓脂肪を減らすために、最も気をつけたいのが夕食。前田さんはこう注意を促す。
「夕食を遅い時間に食べると、栄養素を吸収している状態で寝ることになり、脂肪が蓄積されやすくなってしまう。できるだけ空腹の状態で寝て、睡眠中は代謝の時間にする方がいい。もし寝る2時間以内に食べる場合は、消化にやさしいものを食べるようにしましょう」
谷本さんも続ける。
「常に満腹の状態でいることは好ましくありません。夜遅い時間の食事を避け、12~16時間の一時的な“断食状態”を作ることも脂肪燃焼に効果的です。ただし、糖分を含まない水分摂取は充分に行いましょう」
夕食を早めに済ませるためにも、「朝型生活」を推奨する声は多かった。
「体内リズムが崩れるとインスリン分泌機能が異常をきたし、体脂肪を蓄積しやすくなります」(望月さん)
朝型を意識し、「生活リズムを整える」ことを説くのは磯村さん。
「朝食を毎日決まった時間に食べて、体内時計をリセットすることが大切。特に朝食でたんぱく質を多く摂るようにすると、体温がしっかり上がって代謝もアップします」
最強の食品と究極の習慣で、内臓脂肪という“見えない敵”を撃退すべし!
※女性セブン2024年1月1日号